第17章 この指とまれ
「で、でも」
「余っちまっても別で使えばいいじゃねぇか」
「そう···?」
「思ったんだがよォ、こいつに餡を乗っけても旨ェんじゃねェか?」
「わ、それ、すごく美味しそう···!」
実弥の口から飛び出した提案には、目から鱗が落ちる思いだった。
餡といったら餅や最中との組み合わせが定番だが、考えてみれば餡パンなるものがあるくらいだし、パンケーキに合わせてもきっと美味しいに違いない。
星乃は二つ返事で首を縦に振ってみせた。
「なら俺は隣で餡を作っといてやるよォ。そんでお前がどうにもならねぇヘマしちまったら仕方ねぇ。そん時ゃあ手ェ貸してやらァ」
「実弥···」
感激のあまり、じぃん···と目頭が熱くなる。
ほらよ、とでも言うように、実弥の手から手紙が返った。
「日が暮れねぇうちに行ってきちまおうぜ」と言う実弥の横顔が、ほんのりと面映ゆそうに映った。
──ああ、もう。
隣で微笑み、星乃は思わず実弥の羽織の裾をちょいちょいと引っ張った。
なんだかんだ言ったって、実弥はいつもそう。
優しいのだ。
そんな実弥のことが、心の底から大好きで大好きで仕方なくなる。
「実弥が隣にいてくれるなら、美味しいパンケーキができそう。楽しみだわ」
「いてやるだけだからなァ。てめぇで出来るこたァてめぇでやれよォ」
「ふふ、はい。わかってます」
その後高台のほうまで足を運び、商店街で数日分の食糧や用途品を買う。
途中、家の抹茶が無くなりかけていたことに気づき立ち寄ったお茶屋で、新商品だという紅茶の試飲を勧められた。
蜜璃の家でご馳走になったものとはまた少し味が違う。深いコクが舌に触れ、鼻を抜ける香りが爽やか。
若い女の売り子が牛乳を加えても美味しいですよと言う。パンケーキにも合いそうだなあと思う。
だが高い。少量でも値が張る。
決めかねていたところ、たまには煎茶や抹茶以外もいいんじゃねぇか? と言う実弥の言葉に甘える形で紅茶の茶葉も購入した。
実弥も紅茶の味は嫌いではないようだった。