第17章 この指とまれ
「······あら?」
はたと違和感を覚え立ち止まる。
蜜璃から貰った手紙を読み耽っているうちに、隣にいたはずの実弥の姿が見えなくなったことに、星乃は気づいた。
「実弥?」
振り向いた先に見つけた実弥の背中は、走り去る幼子を見送るように佇んでいた。
幼子の向かう先には、同じ年頃の娘たちが数人で群れている。
「どうかした?」
「いや、何でもねェ」
実弥が再び星乃に並ぶ。
蜜璃の手紙を折り畳み、星乃は羽織の衣嚢へ収めた。
十枚にもわたる分厚い手紙には、パンケーキの材料や作りかたが綴られている他、蜜璃の近況や星乃の体調を気遣う言葉がびっちりと並んでいた。
「蜜璃ちゃん、元気そうでほっとしたわ。上弦の鬼との戦いでひどい怪我を負ったと聞いていたけれど」
「あァ、まだ万全じゃねぇみてぇだがピンピンしてるぜ。心配ねぇだろ」
「せっかくだし、蜜璃ちゃんに教えてもらったパンケーキ、作ってみてもいいかしら? 実弥も食べてくれる?」
「構わねぇが···あの巣蜜とかいうやつぁ俺はいらねぇぞ」
「あら、実弥はお気に召さなかった? けどそうね。巣蜜はなかなか手に入らないものだから、今回は果物やジャムを添えてみましょ。蜜璃ちゃんのお手紙にもそう書いてあるし」
「お前ちゃんと出来んのかよォ。俺は手ぇ貸したりしねぇからなァ」
ぎくりとし、言葉に詰まる。
まさかの先手を打たれてしまい、星乃は胸の内でダラダラと汗を流した。
手紙には、初心者でもわかりやすいようにと絵も添えられていた。丁寧で可愛らしい文字には蜜璃らしい心遣いを感じる。
蜜璃によればパンケーキは『難易度の低い調理』らしいが、星乃にははじめての挑戦となる西洋の菓子作りである。
本当なら、蜜璃と二人で作る約束を交わしていたため、正直なところ、ひとりきりですべてをこなす自信はない。