第17章 この指とまれ
「ねえ実弥······それは、私たちにとって、良いことなの···? それとも」
「わからねぇよ······なんであの鬼だけがそうなのか、人を食わずにいられるのか······わからねぇから、俺たちは俺たちの出来ることを、していくしかねぇんだ」
引き抜いた雑草を握りしめる実弥を見つめ、星乃は再び桶の中の水を柄杓で掬い上げ墓石を濡らした。
無数の墓石が見渡す限りに広大な地に列なっている。遠方を眺めれば、残暑の厳しさを物語る蜃気楼が風景を歪める。
ここを訪れるたび刻みつけられる。あまりに多くの人間が犠牲になってきたのだということを。
鬼のいない平和な世の実現を心に誓い、しかし幾度となく打ちひしがれてきた。その繰り返しだった。けれど、炭治郎と禰豆子が現れてから、少しずつ、なにかが変わり始めた。
耀哉はそれさえも予見していたのだろうか。
禰豆子という存在を認めたときから、暗闇の先に、わずかな光を見出だしていたのだろうか。
「まりつきするひとこのゆびと~まれっ」
麓へ下り、町へと向かう道すがら、民家の軒先ではしゃぐ幼子たちの笑い声に実弥は足取りを緩やかにした。
ゴム毬を胸に抱えた娘の人差し指が空を向き、きゃっきゃとガラス細工のぶつかるような声を響かせ年端もいかぬ娘たちが駆けてゆく。
「「「一ちょ、二ちょ、三ちょ、四ちょ」」」
歌に合わせて、毬つきがはじまる。誰が何回つけるのかを皆で競っているのだろう。振り上げた片足の下に毬をくぐらせ、内側···外側···と交互に続く。
そのとき、「あ···っ」という声と共に弾かれた毬が実弥の足もとに転がってきた。