第17章 この指とまれ
「柱稽古?」
墓石に花を添えながら、星乃は背後で草むしりをする実弥のつむじを見下ろした。
風通しの良い山間の地。カゼクサの、青い葉の匂いが鼻先を何度も過ぎてゆく。
柱合会議から戻ってきたその足で、実弥と星乃は墓参りへやってきた。
人里から離れた場所にひっそりと構えるこの霊園は、産屋敷家所有の土地である。
殉職した鬼殺隊士やその家族を祀るため、産屋敷家が無償で建墓し管理もしている。
「百年近く成し遂げられなかった上弦の鬼を短期間で三体討滅したからなァ。そのせいかもわからねぇが、このところ鬼の出没がピタリと止んでる。おかげで柱に比較的時間の余裕が生まれた。そこで隊全体の戦力の底上げを図るため下の階級の隊士を柱がまとめて稽古しようじゃねぇかっつう話になったわけだ」
「なるほど······確かに、近頃は緊急の伝令もないものね」
「嵐の前の静けさ、といったところかもしれねぇがな」
「稽古ってどんなことをするの?」
「柱によって課題は各々異なるが、主には基礎的な技術や体力の向上ってところだろうなァ」
墓石周りに生い茂っていた雑草が積み上げられてゆく傍らで、星乃は交換した古い花の茎を折り廃棄用の紙袋に詰めてゆく。
「···すごいわね」
柄杓で掬った水を一杯、のんびり墓石に浴びせると、星乃の口から思わず小さな本音が漏れた。
視界の端で仰向けに転がる蝉が、最期の声を振り絞り鳴く。
「? 何がだ」
「だって、少し前までは考えられなかったもの···。柱が一般隊士の皆に稽古をつけることはもちろんだけど、竈門くんの妹さん。まさか鬼が太陽を克服してしまうなんて」
「······」