第17章 この指とまれ
会議中、玄弥の名が出ても顔色ひとつ変えなかった実弥。内心は、一刻も早く玄弥の無事を己の目で確認したかったに違いない。
蜜璃はやるせない思いで声を落とした。
「不死川さん、素直じゃないからなあ······ちゃんと仲直りできるといいんだけど」
「不死川のことだ。見舞いといっても弟の前に顔を出すことはしないつもりだろう。そもそも、俺には喧嘩と呼ぶよりもっと複雑な印象に見受けられるが」
「なんだか切ないわね」
「不死川の気持ちも、わからなくもない」
「でも、不死川さん、前よりちょっぴり雰囲気が円くなったと思わない?」
「まるく······?」
「私ね、この間見たのよ」
「?」
「たまたま通りかかった神社の境内に不死川さんがいて、なにしてるのかしらって思って見たら、不死川さん、お犬様におむすびをあげていたの。それも、すごく穏やかに微笑んでたのよ」
「······ほう」
「不死川さんもあんな顔するんだって驚いちゃった。お犬様も懐いていたし、動物が好きなのかしら」
「それはあるかもしれんな。不死川には鏑丸も懐いている」
「そうなんだ、鏑丸くん···!」
不死川さんのこと好き? と話しかけると、頷くように蜜璃の頬へ胴を伸ばす鏑丸。
「ひゃあ、くすぐったい」
蜜璃があまりに楽しそうにするものだから、小芭内の双眸も自然と柔くなってゆく。
つい先ほど痣者の運命を突きつけられたとは思えぬほどの気丈さだと、小芭内の胸の内は複雑だった。
───…怖くないわけがないだろう。
( だというのに、君は )
この、蜜璃の底抜けの明るさと優しさに、小芭内の心はどれだけ救われてきたかわからない。
だからこそ今、自分にできることならなんでもしてやろうと心に誓う。
君が笑顔でいられるように。
「···まあ、それが不死川の本来の姿なのかもしれん」
そう呟いた小芭内の声は、鏑丸とじゃれ合う蜜璃には届いていないようだった。
「甘露寺。何か食いたいものはあるか?」
「ん~、どうしよう迷っちゃうなあ。源さんのところはどうかな? あそこはどんぶりの種類も豊富だし」
「ふむ······藤襲山の麓の定食屋か」
雲ひとつない青空の下、二人と一匹は仲むつまじく足並みを揃えて歩き出した。