第17章 この指とまれ
それは、あまねが退室した後のことである。義勇が早々に帰ると言い出したのだ。
実弥は義勇を引き止めた。
柱として、今後のそれぞれの立ち回りも決めておかなければならないだろう。そんな実弥の提案も、義勇は『自分には関係ない』と言い切った。
これにはさすがに他の柱も理由を説明してほしいと咎めたが、『······俺はお前たちとは違う』と一言。
『これを簡単と言ってしまえる簡単な頭で羨ましい』と言った義勇には目をつむってやると、実弥が怒りをこらえた矢先の発言である。
皆と一線を引くようなその物言いは、とうとう実弥の逆鱗に触れ、もう我慢ならねぇと義勇に掴みかかろうとしたところを行冥に制止された。
「それでね、今から伊黒さんと食事に行くんだけど、不死川さんも一緒にどう?」
「あー···、」
ふと、実弥は小芭内の視線に気づいた。
前髪の隙間からじぃっと実弥を凝視する双眸は、蜜璃の死角になっているのをいいことに粘着な圧を向けてくる。
『不死川よ、頷いてくれるな』
小芭内の胸の内が聞こえた気がして、実弥は「···いいや」と返事した。
小芭内のためというばかりではない。誘いに乗るつもりは毛頭なかった。
会議が済んだらすぐに帰ると星乃に言い残してきたからだ。
しかも、急遽それとは別の理由ができてしまった。
「所用もあってなァ。折角だが遠慮しとくぜ」
「所用って······あ、やだ! もしかして星乃ちゃん!?」
「甘露寺、そのぐらいにしておいてやろう。急ぎの所すまないな不死川」
「あァ」
星乃ちゃんによろしく伝えてね~! という蜜璃の賑やかな声を背に、実弥は産屋敷家の敷地を後にした。
「もう、不死川さんってば、星乃ちゃんとデートならそう言えばいいのに。きゃ、いいわね~! どきどきしちゃう!」
「不死川の所用は、別のことだと思うが」
「え? そうなの?」
「おそらくだが、不死川は蝶屋敷へ向かったのではないだろうか。不死川弟はまだ蝶屋敷で治療中なのだろう?」
「あ······!」