第17章 この指とまれ
こうして痣の発現が柱の急務となったわけだが、ただひとつ、痣については例外のない事実が認められていた。
心なしか、あまねは心苦しさを胸の内にとどめるように、淡々とした口調で事柄に触れた。
「もうすでに痣が発現してしまった方は選ぶことができません···」
そして、静かにそれが告げられた。
「あ、いたいた、不死川さーん!」
産屋敷家の広い庭を抜けてすぐ、実弥は甘高い声に振り向いた。
実弥に向かって手を振る蜜璃と、蜜璃の隣に並ぶ小芭内。二人が揃ってやってくる。蜜璃は柱合会議前とまるで変わった様子もなく、さきほど残酷とも解釈できる痣の事実を突きつけられたばかりとはとても思えぬ足取りで歩み寄ってきた。
すでに痣を発現させた蜜璃は、『例外なく』その対象となったのだ。だが、蜜璃と無一郎は取り乱すことなく事実を静かに受け入れていた。
怖じ気づくようでは柱など到底務まるものではないと、実弥は思う。
実弥自身、痣を発現させることに躊躇いはない。とはいえ、同等の覚悟を他者に強要しようとも思っていない。
蜜璃と無一郎の本心に触れることはできないが、痣者の言い伝えが自分たちの天命と従う覚悟が二人にもあるのなら、実弥は黙ってそれを受け入れるだけなのである。
「不死川さん、あのね、これなんだけど」
蜜璃が、衣嚢から折り畳んだ紙を実弥の前に取り出した。
「···あァ? なんだァ? こりゃあ」
「パンケーキの作り方を書いたお手紙なの。星乃ちゃんに渡してくれる?」
「ぱんけーき、たァ······ああ、あれかァ」
「本当は星乃ちゃんと一緒に作る約束をしてたんだけど、なかなか会えないでしょう? だからこれを不死川さんにと思って持ってきたのよ」
「ちっ、手紙なら鴉に頼みゃあいいだろうがァ」
「不死川、あまり甘露寺に当たり散らすな」
「···クソ、冨岡への怒りがまだ収まらねェ」
「本当、冨岡さんてばどうしちゃったのかしら。今日は一段と様子が変だったわね」
「知るかよォ。あの野郎、人を見下すような態度とりやがって」
「放っておけ。奴ははなから何を考えているのかわからんような男だ」