第17章 この指とまれ
「はっ、はい!! あの時はですね、確かに凄く体が軽かったです!! えーっと、えーっと」
我先にと声を上げたのは、聡明なあまねにキュンと胸を高鳴らせた蜜璃だ。
「ぐあああ~ってきました! グッてしてぐぁーって! 心臓とかがばくんばくんして耳もキーンてして、メキメキメキイッて!!」
瞬間、その場がしん···と静まりかえる。
義勇やしのぶ、無一郎もきょとんとした顔で蜜璃を眺め、総じて喜怒哀楽に乏しいあまねも珍しく双眸を丸くした。
頬に怒筋を浮かべる実弥の背後では、小芭内が頭を抱えて項垂れる。
困ったことに、蜜璃も炭治郎と同じ感覚的思考の持ち主なのであった。
「申し訳ありません。穴があったら入りたいです」
真っ赤な顔で畳に平伏す蜜璃の後を追うように、
「痣というものに自覚はありませんでしたが」
粛々と語り始めたのは最年少の無一郎だった。
「あの時の戦闘を思い返してみた時に、思い当たること、いつもと違うことがいくつかありました。その条件を満たせば恐らくみんな痣が浮き出す。今からその方法を御伝えします」
無一郎は、しばしの間剣士になる以前の記憶を失っていた。鬼に双子の兄を殺されたうえ、自分も瀕死の状態に陥った。
それからずっと、頭に霧がかかったような状態で刀を振り続けてきたが、上弦の伍との戦いで記憶が戻り、刀鍛冶の里の子供を傷つけられた怒りで感情の収拾がつかなくなった。
「その時の心拍数は二百を越えていたと思います。さらに体は燃えるように熱く、体温の数字は三十九度以上になっていたはずです」
「!? そんな状態で動けますか? 命にも関わりますよ」
すかさずしのぶが口を挟むと、「だからそこが篩 (ふるい) に掛けられる所だと思う」と無一郎が言う。
「そこで死ぬか死なないかが、恐らく痣が出る者と出ない者の分かれ道です」
「チッ、そんな簡単なことでいいのかよォ」
話が一段落すると、実弥がぶっきらぼうな声をあげた。
「これを簡単と言ってしまえる簡単な頭で羨ましい」
「何だと?」
「何も」
そしてまた口不調法なこの男、義勇。彼である。
この一言が実弥の逆鱗を掠めたことに、彼はまだ気づかない。