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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第16章 :*・゚* くちびるにスミレ *・゚・。*:



 お礼とはいえ、少し意外だと思った。

 確かに、鬼殺隊は時に人から感謝をされる。中には金品や高価なものを差し出そうとする人もいるが、それらは決して受け取らない。

 せいぜい軽い食事をご馳走になるか、「余り物だから貰ってくれると助かるわ」なんて言葉に甘え、食べ物を受け取る程度だ。

 行商人がこれを実弥に手渡したのか、それとも実弥が数ある品から選び取ったのか。どちらにせよ、実弥が物品を受け取ることは珍しかった。

 しかも外の国の絵画だ。実弥は好んで西洋のものを取り入れたりしないため、屋敷に洋とおぼしきものは絵画以外見当たらない。

 一見和室には不釣り合いとも思える洋の絵画も、しかしこれは日本の手道具が描かれているせいか、派手さのない控えめな雰囲気が和の空間にも違和感なく溶け込んでいる。



「実弥が貰ってくるなんて、よほど気に入ったのね」

「何度も断ったんだぜぇ? だがしつこいオヤジでよォ。あれこれ差し出されて去るに去れねぇし、参ったなァと思っているところにこの絵がきてよ」

「ふふ」

「······昔、弟たちと、その辺に咲いてるこの花摘んで、同じようなもん作ったことを思い出してなァ」

「スミレの花束?」

「この絵画みてぇに立派なもんじゃねぇが······それを、お袋の誕辰に渡してやったことがあったんだ」

「わ、素敵···。お母様喜んだでしょう」

「今にしてみりゃあ、そんなもんしかくれてやれなかったんだよなァとは思うがなァ」

「そんなことないわ。みんなで一生懸命摘んだお花だもの。素敵な贈り物よ。私だったら嬉しいもの」

「そういやぁ、枯れちまってもしばらく花挿しに飾られてたなァ···。捨てたらいいじゃねぇかと何度言っても嬉しそうにわらうばかりで聞きやしなくて」

「ふふ。それで?」

「ある日、糞親父に捨てられるまでは長ェことそのままだった」

「···どうして······そんなこと」

「見境なく気分で暴力振るうような奴だぜ。何かが気に入らなかったのかもしんねぇが、別に、あんな奴の気持ちなんざ知りたくもねェ」


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