第16章 :*・゚* くちびるにスミレ *・゚・。*:
想像以上に愛らしい反応が返ってくるもんだから、つい我を忘れて調子に乗りすぎちまったみてぇだ···。
弱った果てに双眸を閉じ、実弥はこめかみをカリカリと引っ掻いた。
「んな泣くほど嫌だったのかよォ······そりゃあ、悪かったなァ」
なだめるように頭を撫でても、星乃はどこか納得のいかない表情で実弥を見るばかりである。
覗き込むように接近し、星乃、と耳打ちをする。しかし星乃は返事をしない。
「星乃」
「······」
「···オイ」
次の瞬間、そっぽを向くとまではいかないが、星乃は実弥から若干顔を背けてみせた。
「コラてめぇ星乃」
「んんん···っ」
星乃からそんな反応をされたのは初めてだった実弥。いい度胸じゃねェかァと内心毒づき顎を鷲掴んで引き戻す。
一方、星乃がむくれているのにはもうひとつの理由があった。
気づけば星乃の隊服は、あれよあれよという間に実弥の手により取り払われていた。反して実弥の格好といえば、羽織こそ脱いでいるものの、隊服はまだ上下を纏ったままでいる。
実弥の衣服は少しも乱れていないのに、自分だけがこんなあられもない格好をさせられている現状と、実弥はもしやこういう行為に慣れているのでは···? という焼きもち心も相まって、つい複雑な心情が顔 (おもて) に滲み出てしまったのである。
「···良いもんじゃなかったってんなら、謝る」
「そ、それは···その···きもち、よかったから、なおさら···恥ずかしくて」
「なら別におかしなことじゃねぇぞォ」
「でも私、粗相を···──っン」
唇が重なって、続くはずの言葉が飲まれた。口を開くよう親指で下顎を導かれ、優しい舌の愛撫が口内がたっぷりと潤してゆく。
ああもう、やっぱり。
実弥はずるい。
羞恥心も困惑も、口づけひとつですべてが実弥に取り込まれて溶けてゆく。
あっという間に蕩けさせられ、唇が離れたとたん、再び実弥の熱を恋しくてたまらなくさせる味。
まるで、媚薬混じりの魅惑の口づけそのものだ。
「···ほら、泣き止め」
「っ、」
「ありゃあ尿じゃねェ。潮だ」
「···し、しお?」