第16章 :*・゚* くちびるにスミレ *・゚・。*:
実弥の指がやおらに屈曲を繰り返し続けると、ぶわり、尿意を含んだ絶頂感が星乃を飲み込もうと迫り来る。
哀願しても実弥の手は止まらない。
脳内を覆う霧の狭間で光が弾け散乱し、戦慄と恍惚が交互に訪れ見上げた先の宙が眩んだ。それも徐々に水泡のようにぷちぷちと弾け飛ぶ。光しかない無の領域になってゆく。
( ···っ、もう、なにも考えられない )
ちぅ···と、実弥の唇が星乃の陰核に軽く吸い付いたときだった。
「───…っ、ぅ…」
こめかみがじんと痺れたのを境目に、星乃の世界は消音に包まれた。
技の呼吸から生み出されるものとはまた別の、頭頂から四肢の末端まであますことなく血液が行き渡るような快感に身震いがする。
しばし停止する呼吸。
顎先を天井へ向け、再度絶頂を迎えた星乃は喉奥から弱々しい嬌声を放った。
「···!」
星乃の秘所から飛び出した"あるもの"に、実弥は反射的に双眸を瞑った。とはいえ実弥の顔を濡らしたそれは、あまりにも慎ましかった。
例えるならば、湯浴み時しばしばやってしまうあの遊び。合わせた掌の中に含ませた水を、交差した親指の穴から押し出して飛ばす、水鉄砲にも似た。
無色透明のその水が、二度、実弥の頬を静かに濡らした。
実弥は濡れた顔を拳で拭い取りながら頭を垂らし、
「──…ク、」
たまらず小さな笑みを漏らした。
「さ、実弥の、······いじわる······」
「···ぁ"あ"?」
「わたし、おねがい、したのに···」
脱がしかけのタイツを星乃の足から取り終えた頃、実弥の耳にか細い涙声が届いた。
見ると、ふにゃりと垂れ下がった星乃の目尻から一雫の涙が零れ落ちていった。
実弥はギクリと肩を揺らした。
股に顔を埋める行為は、星乃にはいささか機が熟さぬうちの振舞いだったかもしれねぇなァ···と今頃になって小さな罪悪感が実弥の腹底に発芽する。