第16章 :*・゚* くちびるにスミレ *・゚・。*:
天を仰ぐような心持ちで星乃に向き合う。
掌で白い頬を包み込み、水面 (みなも) を掬い上げるような力加減で顎を上向きにしてやると、丸くなった星乃の双眸と至近距離で視線が絡んだ。
「一体全体、お前はどういうつもりでンなことを言いやがる」
薄く綻ばせた唇でそう問う。
星乃は何のことかわからないといった様子で疑問符を浮かべた表情(かお)をしながら実弥を見ている。
「誘ってんのかと思われちまってもしかたねェ口振りなんだってことを、てめぇで自覚しといたほうがいいなァ···?」
「······っ」
実弥は至極弱い力で、星乃の輪郭の傍らにある、耳の小さなでっぱりを引っ掻いた。
星乃の唇から、「ふ、」と小さな声が発せられる。
頬と耳殻を赤く染め上げ、細い肩をビクリと強張らせた星乃の反応を認めれば、実弥の柔らかな加虐心がくすぐられるように目を覚ますのだ。
「ち、ちが──っン、っ」
否応と同時に唇を喰らう。
慌てて半歩退いた星乃の体躯を、そのままゆっくり後方へと追いやってゆく。
寝間のふすまが星乃の背に触れ、これ以上は下がれないところまで辿り着いても、しばし実弥は星乃の口内をたっぷりと愛撫し続けた。
終わりに舌尖を吸い上げた水音が、辺りに慎ましく漂った。
「後ろのふすまを開きゃあ寝間だぜ······引き返してぇつうんなら無理強いはしねェが······どうする」
───"見てぇか"?
星乃はこのとき、実弥の狡猾さを垣間見たような気がした。
不器用なひとだと思う。とはいえ実弥は本来頭も切れる男だ。こんな甘い口づけで導かれてしまったら、引き返したいなんて首を振れるはずもない。
それを、どこかで見透かされているような気がして。
「────…」
実弥の羽織を再びきつく握りしめ、
星乃はこくりと頷いた。