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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第16章 :*・゚* くちびるにスミレ *・゚・。*:



 霞柱の【時透無一郎】は、例を見ない早さで柱になったことから天才剣士と呼ばれている。

 機能回復訓練最終日の昨日、星乃は蝶屋敷に偶然居合わせた無一郎に手合わせを願い出ていた。

 たった二ヶ月で、柱になった天才剣士。

 さらに、霞の呼吸は風の呼吸の派生だ。

 星乃は、同じ風の呼吸の派生を操る無一郎に以前より興味を抱いていたのだ。



「時透がどうしたってェ?」

「それが──」





『······季の呼吸? へえ、そんなのあるんだ』





「って開口一番」

「ク···ッ」

「あ、笑ったわね···っ、確かに歴史も浅いし使い手の少ない呼吸だけれど、少しだけ切なくなっちゃったわ」

「あいつァ剣士になって日も浅ぇししかたねぇんじゃねぇかァ? 手合わせはしたんだろ?」



 星乃はうなずく。



「どうだった」

「すごかった······本当に。刀を握ってたった数ヶ月だなんて······信じられない」

「オイオイ、まさかまた自信を失くしたとかぬかすんじゃあねェだろうなぁ」



 もう聞き飽きたとでも言いたげに、実弥は親子丼をがつがつとかきこんだ。しかしなにも言わない星乃を気にかけ、どんぶりばちの隙間から片方双眸を覗かせる。

 すると、「ううん」と星乃が首を左右に振った。



「以前の私なら、もしかしたらそうなっていたのかもしれないけれど」



 継承できなかった風の呼吸。季の呼吸を極めようとすればするほど、思うように扱いきれない自分に焦りばかりを感じていた日々。



「これまでよりもずっと強く、この呼吸で己を高めていきたいという気持ちになったわ」



 へえ···とだけ呟くと、実弥は再び親子丼をかきこんだ。

 清二の傷。文乃の死。そして匡近。

 己の惰弱さや無力さを痛感するたび、比例して罪の意識や後悔がひどく疼いた。

 なぜあのときあんなことをしてしまったのか。なぜそうできなかったのか。もっと最善を選択できたのではなかったのか。挙げればきりがないことばかりだ。

 けれども思う。
 すべてを水に流すことは容易でなくとも、遺されるもの、刻まれるもの、反して変わらずあり続けるもののかけがえのなさに、ふと気づかされることがある。


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