第16章 :*・゚* くちびるにスミレ *・゚・。*:
( あ······そうだわ。お墓参り )
匡近の墓参りに行かないかと言っていた実弥。
星乃は普段から月に一度程度匡近の墓参りに脚を運んでいる。さほど遠くない場所に実弥の家族の墓地もあると教えられてからはそちらにも出向くようになった。
実弥も忙しない合間を縫って時折墓参りをしているが、二人で揃って手を合わせに行くのは久方ぶりのことだった。
「早く来いよォ、置いてっちまうぞォ」
「あ、はい···っ」
立ち止まり、実弥が振り向く。慌てて傍らまで追い付くと、実弥の歩幅が狭まった。星乃が隣を歩くとき、実弥は必ず歩く速度を緩めてくれる。
お供えの花を買い、不死川家、粂野家と、順に墓石の手入れをし、手を合わせた。
星乃は無心で双眸を閉じ、周囲を纏う清廉な空気感や音や香りに五感を委ねた。ありがとうもごめんねも、星乃から匡近へはどこか綺麗事になってしまう気がして言えなかった。ただ、『実弥の、心安らげる場所でありたい』と、今の自分の素直な偽りのない想いを伝えた。
匡近が、実弟のように可愛がっていた実弥の幸せを心から願っていたことを知っているから。
今度は私が、
彼を支えてゆきたい、と。
ふわり···。
草木の香りと共に、風が流れた。
静かに微笑む匡近が、優しく背中を押してくれたような、風だった。
( あら···? )
墓地を後にした帰り道、星乃は違和感を覚えて隣を歩く実弥を見上げた。拙家へ向かっていると思っていた実弥の体躯が、別れ道、反対方向へと曲がったのだ。
「ねえ実弥、この道はうちとは真逆の方向なのだけれど······どこか寄っていくの?」
「いいや、俺んとこの屋敷に帰る」
「実弥の······?」
「お前は今日からうちで暮らせ」
───?
うちで、暮らせ?
すぐに理解が追いつかず、星乃は歩きながらしばしぽけぇと実弥を見つめた。
「だから、お前は今日から俺ん屋敷 (とこ) で暮らしゃあいいっつったんだ」
「ぇ···ええ? どういうこと?」
「どうもこうも、そのまんまの意味だ」