第16章 :*・゚* くちびるにスミレ *・゚・。*:
「明日から星乃さんにお会いできなくなると思うとさみしいです~~」
「またいつでもお立ち寄りくださいねぇ」
「お身体には気をつけてくださぁい」
蝶屋敷から見送りに出てきてくれた三人娘の前に立ち、星乃は差し出されたすみの手を両掌で包んでさすった。
「すみちゃん、きよちゃん、なほちゃん、本当にお世話になりました。また美味しい甘味をもって遊びにくるわね」
まだ柔らかさの残る頭を順番に撫でてゆく。
三人は、お揃いの蝶の髪飾りを揺らしながらつぶらな双眸を潤ませた。
病衣から隊服に身を包み直せば改めて身の引き締まる思いがする。
重ねた羽織は虹色紅葉。
あの日から数日後、まっさらと見紛うほどの美しさとなって塚本の手から戻ってきたものだ。
あまりに美しく仕上げられていたのでお店に出してくれたのかと思いきや、塚本がすべて自分の手で仕上げたというのだから驚きである。
洗濯屋でも開けば繁盛しそうだと称えると、塚本は照れ臭そうに笑っていた。
蝶屋敷に運ばれた日から数えて二週間が経過していた。怪我の具合もすっかりいい。
三人娘に手を振って、星乃は家路の方角へと歩き出した。
「よォ」
「%*☆$"‥っ」
ひっくり返るかと思った。
突如眼前にずんと現れた実弥のおかげで星乃の目尻にうっすらと涙が滲んだ。
「なんだァ人の顔見るなり腰抜かしそうになりやがって」
「な、? だって、さね······? どうして」
「どうしてって、家に戻るっつう手紙を寄越してきたのはお前だろうが」
それだけ言うと、実弥はポン、と星乃の背中を軽く叩き、すたすたと先を歩き出してしまった。
確かに、明日 (みょうにち) 拙家へ戻りますと綴った一筆箋を実弥に宛てていた。が、『特になんの問題もなく日常へ戻れそうです』という報告以外の意図はなかった。
実弥は普段と変わらぬ隊服姿で、しかしよく見るとその手に柄杓の入った木製の手桶を持っている。