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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第15章 とまれかくまれ



 星乃、と、実弥は静かに口を開いた。



「俺は、鬼舞辻無惨を必ず屠る。その思いは、成し遂げるまで変わらねェ」



 星乃は一度驚いたように双眸を見開いて、しかしゆっくりと頷いた。



「恋人、つぅようならしいこたぁ、おそらく、してやれねェ。この命がいつまであるかも、わからねぇ」



 実弥はまじろぎもせず星乃を見ている。

 背けずに、逸らさずに。

 ただ、真っ直ぐに、星乃も実弥を見つめ続ける。



「それでもお前が、許す、つぅなら、俺はァ、何があろうと尽きるまで、お前を大事にしてやりてぇと思う。幸せに、してやりてぇと思う」



 紡がれる想いの一雫さえ、
 取り零すことのないように───…



「だから、俺ァ決めたぜ星乃」



 実弥の眼球の縁取りに、陽光がくるりと纏いついたのを、星乃は見た。







「お前に、

  鬼狩り以外のすべての俺をくれてやる」








 不敵な風が吹き抜ける。
 星乃の肺が、大きく膨らむ。

 "鬼狩り以外のすべての自分をお前に"と、実弥は確かにそう言った。

 問い返すことはしない。一言たりとも逃さぬように、実弥に五感を研ぎ澄ませていた。

 長年近くで実弥を見てきた星乃だからこそわかる。伝わる。

 それが実弥の至極真心である他ならない言葉だと。

 心の中に大きな怒気の渦を巻き、己のすべてを刃に注いで夜闇を切り裂いてゆくような、実弥はそういうひとだった。

 なにも出来なくとも、せめて、実弥の足枷だけにはなりたくないと思っていた。


 それなのに、これ以上贅沢なことがあるのだろうか。


 こんなにも、幸福で心満たされていいのだろうか。



「······~~っ、」

「──…なんだ……泣くんだか笑うんだか、どっちかにしろォ」

「だっ、て···っ」



 気づけば頬にあたたかなものが伝い、星乃は掌で顔を覆った。

 昨日よりも今日。
 今日よりも明日。

 揺るぎない実弥の想いに触れるたび、胸が震える。熱くなる。



「実弥がとっても、格好いいから···っ」



 こんな気持ちにさせてくれるひと、実弥以外、他にはいない。

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