第15章 とまれかくまれ
イヤイヤイヤなんで俺がこのひとに頭掴まれてんの···!?
ぐぐぐぐぐ。実弥の腕力に無理矢理首を捻らされ、後藤の目玉が剥き出しになる。
「テメェは何年鬼殺隊の隠をしてやがる······下のモンきっちり躾るのもテメェの務めじゃあねェのかァ···!!」
「ももも申し訳ございません不死川様···っ、今回の件は私のほうでしっかりと塚本に言ってきかせますので、何卒···!」
「もうそのくらいにして実弥···っ、他の病室には具合を悪くして休んでいる隊士たちもいるのよ···っ」
さすがにこれ以上は見過ごせないと、星乃は寝台の上から語勢を強めた。
実弥の動作がピタリと止まる。締め上げたい気持ちにはいまだ収まりがつかないが、星乃にゆっくり休めと促した自分が騒々しくするのはさすがに筋が通らない。
大人しくなった実弥を面食らった様子で眺めていたのは後藤だった。
耀哉の鶴の一声で黙る柱たちの姿を目にしたことはあるものの、実弥にそれをやってのける一般隊士がいたことに驚く。
そういえば二人は姉弟弟子だったか···などと納得しているうちに実弥に病室から追い出され、後藤の頭部は無事解放されたのだった。
「飛鳥井さんのおかげで命拾いしたわ俺···」
蝶屋敷の廊下を引き返して行きながら、げっそり。後藤がやつれた顔をする。
「あの、なんというか、すみません後藤さん」
「哀れんだ目をすんじゃねぇ、誰のせいだと思ってやがんだ」
「反省しています」
「まぁ、わかってんなら俺から言ってやることは特にねェよ。どうせ風さんにもこっぴどく言われたんだろ? 元気出せって。飯でも奢ってやっからよ」
バン。
背を叩く掌に、鼓舞を感じた。このひとも案外面倒見の良い人だからな···と塚本は微苦笑を顔に浮かべる。
「おめぇは上背にも恵まれてるし、隠にしては体格も大柄だ。体力もある。わりかし頼りにしてんだ俺は。だから辞めるとか言うなよなぁ。隊士ってのは、何人いたって足りねぇんだ。一緒に頑張ろうぜ」
後藤の言葉が心にすんなり浸透してゆく。
こたえているときにこそ優しさが身に染みるとは、こういうことなのかもしれないと塚本は感じた。