第15章 とまれかくまれ
合間口を挟んだりせず大人しくしていたくせにこの言い草である。
塚本は思わず零れかけた笑いをこらえ、続けた。
「それと、止血していただいた際の飛鳥井さんの羽織と手巾をこちらで洗濯したのですが汚れが綺麗に落ちきれず······改めて入念に洗濯し直して参りますのでお返しに少々お時間をいただいてもかまいませんか?」
「羽織? そんな、気になさらなくても大丈夫ですよ」
「しかし、そういうわけには」
「羽織ならもう一枚別のものを持っていますし、私もお家でお洗濯してみますから」
「···それでは自分の気が済みません。どうか持ち帰らせてはいただけないでしょうか」
塚本があまりに熱心に頼むので、それならば···と星乃はお願いすることにした。
あの羽織は文乃の着物から仕立てたものだ。予備の羽織も同様で、淡い虹色紅葉のそれは文乃がお気に入りでよく着ていた着物だった。
例え汚れが落ちなくても、綺麗に畳んでしまっておこうと決めている。
それでは失礼致しますと言い、塚本は小腰を屈め病室から出た。すると、「やいこら塚本!」
威勢のいい声が廊下に響いた。
「お前こんなところにいやがって!」
「え、後藤さん? なにをしているのですかこんなところで」
「そりゃあこっちの台詞だ馬鹿野郎! おりゃあ別の怪我人のところに用があって···って、風···!(じゃねぇや) 不死川様!?」
ぷんすかしながら拳を振り上げやってきたのは隠の後藤だ。
早朝の病床に筒抜けの声。しのぶに聞こえていたら大目玉を食らうだろう。
後藤は病室の中の実弥の存在に気づいたとたん飛び上がって背筋を伸ばした。
「バ、おま、余計なことして風さん怒らせたりしてねぇだろうな?」
「はい?」
塚本に身を寄せて、ひそひそと何かを話し始める。
「はい? じゃねぇよ馬鹿野郎、柱だぞ···っ、よりにもよって一番怒らせちゃあいけねぇお人じゃねえか漏らすかと思ったわ···! つうか何これどういう状況」
「後藤ォ······!」
「はひっ···はいィイイ!?」
実弥は音もたてずに背後から二人に接近した。
どういうわけか、塚本ではなく後藤の頭頂を片手でがっしりと鷲掴んでいる。