第15章 とまれかくまれ
塚本は、呼びかけられてもしばし姿勢を直そうとはしなかった。
星乃がもう一度声をかけると、ようやく垂直に背筋が伸びる。
まぶたを伏せたままの塚本と、星乃の視線は交わらない。
「どうか、そんな風に言わないでください···。剣士であろうと、隠であろうと、鬼殺隊の仲間であることに変わりありません。皆、ひとりひとりにそれぞれの役割がある。剣士も、隠も、刀鍛冶師や藤の花の家紋の家も······どれも必要な存在です。隠の皆さんにしかできないことがあります。隠がいるからこそ、鬼殺隊は成り立っているんです。······ね、実弥」
実弥は鼻を鳴らしてぷいとそっぽを向いてしまった。
実弥も決して悪漢ではない。
どれだけ他人に厳しい目を向けようと、身命を賭して戦う仲間に、それを支える者たちに、心根では礼節を重んじていることを星乃はちゃんと知っている。
塚本であるが故に、つらく当たってしまうのだ。
「······なぜ、ですか」
ぽつりと、塚本が声を落とした。
「私はあなたを懲らしめてやろうと思い、あなたに近づいたのです。兄のことを思い起こさせ、汚い言葉で罵った。そんな人間を、なぜあなたは躊躇わず救ったのですか」
星乃は黙り、続く塚本の声にただ耳を傾けた。
「本当は、兄があなたにどれだけ残酷なことをしたのか、知っていた。許されることではない。罪にも問われる行為です。あなたはなにも悪くない。悪いのは、欲に溺れた兄であると、わかっていた。けれど······それでも兄は、たったひとりの私の兄でした。鬼に食われた兄の無念を晴らしたかった。しかし剣士の才に恵まれず、一時私は絶望しました。悔しかった。この手で直接鬼を屠ることのできない自分が不甲斐なかった。その矢先、あなたのことを耳にしたのです。このどうしようもないやるせなさを怒りに取り換えあなたに向けることで、きっと私は自分を保っていたのだと」
実弥もまた、なにも言わずに窓の外の景色を見ていた。