第15章 とまれかくまれ
塚本の名前を耳にしたとたん、実弥は案の定双眸の色を豹変させた。
「塚本だとォ···? あの野郎ォ、何しに来たァ···」
「塚本さんは今回現場にいた仲間の内の一人なの···」
「ぁァ? 聞いてねェぞ」
実弥が拳に力を入れる。
いまにも掴みかかりにいきそうな顔で、扉を睨みつけている。
「実弥お願い。大丈夫だから、怒ったりしないで」
「···だったら俺もここにいてやる」
実弥は塚本と星乃の関わりを案じているのだ。そう思うと強制的に退いてもらうわけにもいかず、なまえは少々不安を抱えつつも「どうぞ」と入室を促した。
扉が開き塚本が現れる。瞬間、彼が双眸を剥いたのがわかった。
時刻は早朝。まさか実弥と鉢合わせになるとは思っていなかったのだろう。
明らかに二の足を踏む塚本との間に重苦しい空気が漂う。
「···おいテメェ」
「あ、あの塚本さん、どうぞお入りください。お怪我の具合はどうですか?」
威嚇する実弥をすかさず遮る。
実弥は苛立ちをあらわにし、寝台を挟んだ向こう側から鋭い眼差しで塚本を見ている。
遠慮がちに「······はい」と呟き、塚本はしずしずと病室に足を踏み入れた。
装いの下には怪我の処置を施したあとが覗いていた。手首に巻かれた包帯や、目尻に見える粘着テープが痛々しい。
「テメェ······自分がなにしでかしかたわかってんのかァ···? 剣士の足引っ張るような真似しやがって」
「実弥、そんな風に言わないで。彼はなにも悪くないわ。それよりも私がもっと機転を利かせていれば」
「いえ、不死川様のおっしゃる通りでございます。隠が戦いの妨げになるなど言語道断。最前線で戦う剣士が命を落とすくらいであれば、己が罷 (まか) るべきと心得ています。許しを請うつもりは御座いません。それでも一言謝罪を申し上げたく参りました」
心よりお詫び申し上げますと、塚本は頭を下げた。
「······塚本さん、顔を上げてください」