第15章 とまれかくまれ
そして、震える身体を抱き寄せた。
「···たりめェなこと、聞くんじゃねぇよ」
「こ、っ、こいびと、っと、して····?」
「こ、っ"、い"···っ」
肩が強張り、思わず心音がトクリと跳ねたことを自覚する。
ほのかに上昇した体温を誤魔化すように、実弥は抱き寄せた腕に力を加えた。
「······まァ、そういうことに、なんじゃねェかァ」
どうにも要領を掴みきれねぇ···と、形容しがたい気持ちになったのは言うまでもない。
こんなときはどう答えるのが正解なのか。しかし考えるだけ無駄だと深くは追い求めないことにする。
正解などわかりはしないし、わかったところで口に出せるはまた別だからだ。
その代わり、意地も威勢もなにひとつ含まない手で、少しでも星乃に優しく触れてやりたいと思う。
「いい加減泣き止め。傷に障るだろうがァ」
「ん、ん」
星乃が小さく二度頷いたのを見計らい、実弥は片足の膝を寝台にかけた。
触れていた体温が一度離され、片膝に重心を預けた実弥の顔が星乃の正面にやってくる。
双眸を閉じ、唇を重ねる。
実弥から差し出された舌尖に応え口を開くと、一周撫で回すように舌が絡んだ。かと思えばすぐに離れる。名残惜しさを置き去りにする、短くて、少しだけ狡猾 (こうかつ) な口づけだ。
そのとき、病室の扉を叩く音がして、とある人物の声がした。
「塚本です」
至近距離で寸刻互いを見合せたあと、実弥と星乃は同時にパッと顔を背けた。実弥は小さく舌打ちし、寝台に掛けていた片膝を床に下ろした。
「飛鳥井さん、失礼してもよろしいですか?」
呼び掛けに即答できなかったのは、頬の熱がなかなか落ち着かないせいと、もうひとつ、実弥がここにいるからだ。
二度と顔を見せにくるなと、塚本に釘をさした実弥。あれから塚本が星乃の前に現れることはなく、星乃も気にかけてはいたものの、こちらから彼に歩み寄ることもできないまま数日の時が流れた。
昨夜のような一件は、滅多にあることではない。とはいえ同じ隊に所属しているのだ。現場で顔を合わせるのは致し方のないことだった。