第15章 とまれかくまれ
星乃は寝具の上で体躯を起こした。肌触りの良い柔らかな病衣が素肌に擦れ、全身の至るところに包帯が巻かれていることを知る。
鎮痛薬が効いているのか総じて痛みは感じないが、背中にだけは時折鈍い違和感が走った。
「言っておくが、俺は、お前と半端に馴れ合うつもりはこれっぽっちもねぇからなァ」
"半端に馴れ合うつもりはない"
実弥の言葉を反芻し、開口しかけ、星乃は唇をそっと結んだ。
色素の薄い髪の毛先が陽光を纏いきらきらと透過している。
もしかして、想っていたことを見透かされたのだろうか。それとも実弥も同じことを考えてくれていたのだろうか。
どちらでもいい。
不思議と実弥の言わんとすることが心に染み入り、目頭が熱くなる。
星乃に背を向けている実弥の顔は、窓にうっすらと映し出されている程度で表情は読み取れない。重ねて涙腺から膨れ上がる水分が、星乃の視界を曖昧にする。
「分別なくお前を抱いたわけじゃねェし、······それは、この先も変わらねェ」
実弥の背後から、ぐす、と鼻の啜る音がした。
振り向くいた先から星乃の泣き顔が双眸に飛び込んできてぎょっとする。
また、泣かしちまった···。
実弥は宙を仰ぎ片掌でまぶたを覆った。
だが星乃の涙の意味が何となしに汲み取れるからこそ、胸の奥がどうしようもなく打ち震えている戸惑いを自覚せずにはいられない。
それは、星乃に深く触れたあの刹那から、自分の信念に新たな灯火が宿ったことを認めざるを得ないものだった。
星乃のもとへ歩み寄り、うつむく頭に掌を滑らせる。
横髪を耳にかけ、目尻の涙を指で掬う。
「っ、いい、の······?」
実弥は指の動きを止めて星乃を見つめた。
「わ、わたし、これからも、実弥のそばに、いても、いい······?」