第15章 とまれかくまれ
沈黙が漂った。
二人の関係は間違いなく以前とは違うものに変化した。とはいえ、なにか特別な契りを言葉で交わしたわけではない。
実弥は、この先をどう考えているのだろう。星乃の胸に、ふと、そんな率直な疑問が生ずる。
互いの気持ちを確認し合い、身体を重ねた。それでも、実弥は鬼の殲滅を第一に確固たる意志を揺るがないものとしているひとだ。
姉弟子であり、弟弟子である。
今の二人にそれ以上の名を欲すれば、実弥を困らせてしまうかもしれない。そんな一抹の寂しさが、ほの暗い場所から浮上してくる。
実弥は柱。任務と鍛練で娯楽に費やせる時間は少なく、より遠く危険な場所へ派遣される頻度も高い。それはこれまでと同じこと。
あの日、紅葉と月明かりに照らされながら、改めて考えた。鬼殺隊という存在を。私たちの在りかたを。
大衆からは、どこか風変わりで理解し難いと思われるのかもしれない。それでも、これが私たちの日常だと、今ならば胸を張って誇れる。
自らの意思で選び取ってきた確かな道の上に立っている。
「······実弥」
寝具から口もとを覗かせる。
微かな光をたゆたわせた実弥の双眸と視線が重なる。
「任務を終えたその足で来てくれたのね······。ありがとう」
ただ、生きていてくれるだけでいい。
それがどれだけ尊いものであるのかを、私たちは知っているから。
病室に柔らかな空気が流れた。
しばらくして、丸椅子から立ち上がった実弥を双眸で追いかける。
病室の中央に取りつけられた縦長の上げ下げ窓が開かれて、辺りに鮮明に色が宿った。
「······怪我が回復したら、改めて匡近の墓参りに行かねェか」
外の景色を眺めたまま実弥が言う。
「あいつに、報告、っつうわけでもねぇが······けじめとしてよ」
「けじめ···」