第15章 とまれかくまれ
「······ここ、は」
「胡蝶んとこだ。お前、戦いのあとぶっ倒れて運ばれたんだと」
「······そう···だった······ふふ、恥ずかしい」
「締まりのねぇツラしてんじゃねェ。大事にならず済んだから良かったものの、てめぇ一人で無茶なことしでかしやがって」
ハッとして、口が止まる。
案ずるあまり少々険のある物言いをしてしまった後悔から、実弥は星乃の髪をくしゃくしゃと撫で回した。
星乃はそんな実弥のなにもかもを見透かすように、双眸を閉じ、普段と変わらない微笑みを浮かべている。
「一緒にあの場所にいた······ひとたちは」
「あァ、皆揃って命に別状はねぇとのことだ」
「よかった······」
「当面いらねぇことは忘れろ。今日はたっぷり休め」
言いながら、実弥は傍にあった丸椅子に粗暴に腰を落ち着けた。
「ふふ」
「······なんだァ? お前はさっきからァ、腑抜けたツラばっかしやがって」
訝しむ実弥に対し、星乃は宙を見つめながら思い返すように双眸を細める。
「夢にね、実弥が出てきたの。それで、目が覚めたら実弥がいてくれたから、びっくりして···。不謹慎だけど······会えて、嬉しいなって」
「······」
あァ、そうかよォ···と口にしたつもりが声にならず、実弥はどうにも落ち着かない気持ちで頭を垂らし髪の毛をまさぐった。
星乃からの好意に耐性がついてくれるのは、もうしばらく先になりそうだ、と思う。
星乃が自分を好いている。それがいまだ幻のような気がしてならない実弥には、あの唇からふいに放たれる片言隻語 (へんげんせきご) が面映ゆくてたまらない。
「···ぁ~···、先日は、悪かった。お前が目ェ覚ます前に出て行っちまって」
「そ、そんな。私こそいつの間にか寝てしまって···。あの、いろいろとしてくれて、ありがとう」
身体を重ねたあの日以降、二人が顔を合わせるのはこれがはじめてのことである。
実弥は横に視線を背け、星乃は寝具を口もとまで深く被せた状態で赤面した。