第15章 とまれかくまれ
「どなたかのお見舞いでしょうか」
「さあなぁ? それよか塚本探してんだけどどこ行ったか知らね?」
「そういえば······僕もだいぶ前に処置室で見かけたきりです」
「ったく、隠が隊士の足を引っ張るような真似してどうする。今回は全員無事で済んだから良しと言えるが、こりゃあ見つけたら説教もんだぞ」
「わあ、後藤さんが先達っぽいこと言ってる」
「お前······ぜってー俺のこと敬ってないだろ······別にいいけど」
「やだなあ、そんなことありませんて後藤さん! 頼りにしてます、大先達!」
「あそー (棒) 」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ後藤さん~!」
薬品管理室と書かれた部屋の前に差しかかり、実弥は立ち止まった。視界の端で蝶の髪飾りが揺れたのを捉えたからだ。
開け放してある扉を抜け中へと脚を踏み入れる。屋敷に漂う消毒薬の匂いに混じり、鼻腔をつんと刺激する薬品の匂いがさらに濃くなる。
「胡蝶」
声をかけると、黒髪を彩る蝶がふわりと動いた。
「あら、不死川さ」
「あいつァどこにいる」
「え?」
しのぶがきょとんとした顔をした。
「アイツとは、どなたのことでしょう?」
眼前にかざしていた薬品瓶を棚に戻し、今度は横顔に微笑みを浮かべ問い返してくる。
( ······チッ )
あえて反問してくるところは相変わらずだと、実弥は内心で舌打ちをした。
双眸を閉じ、肩で一息。
もう一度しのぶを見据える。
「······星乃だ」
「星乃さんでしたら、今はあちらの個室で眠っています」
「怪我の具合は」
「上手く急所を避けてくれたおかげで大事には至りませんでした。明日にでも大部屋へ移れます。倒れられたのは、出血の他、精神的にもなにか疲弊するようなことがあったのかもしれません」
実弥は心持ち眉を潜めた。
片腕に抱えた用箋挟 (ようせんばさみ) に目を落とし、万年筆でさらさらと何かを書き込むしのぶに背中を向ける。
「邪魔したなァ」
ひらひらと、半端に手をかざしながら去ってゆく実弥の後ろ姿を横目で流し、くすり。しのぶは微笑んだ。