第15章 とまれかくまれ
( ···ああ )
膝を落として、崩れてゆく頭に手を添える。
この子は、"にぃに"の捕ったお魚を求めていたのだ。赤い金魚ではなく、あの夏、銀のたらいで泳いでいた小さな透明の淡水魚。
おそらく二人の稀血の兄を食らったのだろう。
知らぬうちに。なにひとつとして、理解もできないうちに。無惨の血に従うまま、血肉を欲して。
兄が死んだことにさえ気づかないまま、共に消えてしまった魚をずっと探し求めていたのだ。
許さない、と星乃は拳をにぎりしめた。
こんな幼子まで鬼にさせられ、意思とは無関係に人間の血肉を食らわせる。
すべては無惨の私欲のために。
なにもできない。消えゆく最期にこうして手を添えてやることしかできない。そんな自分が悔しくてたまらない。
「あ、いたぞあそこだ!」
背後からひとの声がした。
振り向くと、隠が二人こちらに向かって駆けてくる。
傍らには共に水柱に吹き飛ばされた応援の隊士の姿もあった。
よかった···。助かったのね···。
塚本さんたちも、ちゃんと、無事でいてくれいる···。
ふらり。安堵したとたん体躯が傾き、星乃はその場で気を失った。
日が登りはじめたばかりの卯の刻。双眸を血走らせ、ずんずんと蝶屋敷の廊下を大股で歩く男がいた。
実弥である。
「邪魔だ退 (ど) けェ」
「ひっ、不死川様···! 申し訳ございません!」
運悪く角で実弥と鉢合わせになった隠は、電光石火の勢いで三歩も四歩も後方へと退いた。
実弥は見るからに殺気立っていた。
殴られるのか? 蹴られるのか? どちらにせよブチ殺されることを覚悟でぐっと歯を食いしばる。一方の実弥はというと、すぐさま前方へ向き直り、険しい面持ちのままより奥へと進んでいった。
「おいどうした? 大丈夫か?」
「は、ご、後藤さん」
腰を抜かし座り込んでしまった隠を見つけ、古参の後藤がぎょっとした様子で近づいてくる。
「今の風さんじゃねえか?」
「は、はい······殺されるかと思いました」
「こっちは怪我人の寝床だろ? めーずらしい」