第15章 とまれかくまれ
「飛鳥井さん······ッ!!」
「っここから離れて!」
「し、しかし···っ!」
「私が必ずこの鬼の頸を斬るから、彼を連れて早く!!」
「···く、っ」
一瞬の躊躇いを覗かせたあと、塚本は隊士を背負うとその場から駆け出した。
「にぃ、に······かぇし、え」
「っ、?」
眼前にゆらりと立ちはだかる鬼が、また、なにかを呟いた。
幼いからなのか、それとも別に理由があるのか、この鬼との意思疎通は困難に思えた。
鬼には"禁じられていること"があるという。
例えば、"無惨の名を口にしてはいけない"がそのうちのひとつである。
人間としての記憶どころか意思を失い、人語を理解できない鬼も多い。しかし血鬼術を操るような強い妖力を持つ鬼であれば、言葉を交わせる鬼がほとんど。最低限の意思は持ち合わせたうえで人を食らう。
この鬼にその意思はあるのだろうか。
星乃にはそうは思えなかった。
自分がなぜこんな姿であるのかも理解できぬまま、ただそうさせられているような───。
「おさ、かな······か、えシて······にぃ、···を」
再び鬼の皮膚がボコボコと暴れはじめる。
ぶ、わ──!と膨れ上がった刹那、一刀両断できる距離まで間合いを詰めると、
「ごめんね」
星乃はか細い声を絞り出し、
ッザン······ッッ!!
鬼の頸を斬り落とした。
地に転がる小さな体躯は、次第に音もなくはらはらと、風に舞散る花弁のように姿形を消してゆく。
「······にぃ、に」
星乃の脚もとから、鬼の小さな声がした。
「にぃに···の、おさ、かな、どこ···? にぃには···どこへい、ちゃ···の······?」
「───…」