第15章 とまれかくまれ
十二鬼月ではないものの、かなり強い妖気を感じる。おそらく、五十···百人···それ以上の人間を食っている。か、稀血の人間であれば数人食っただけでもそれと同等の力を得られる。
腕力を奮い立たせるように、星乃は日輪刀の柄 (つか) を強く握りしめた。
人間を鬼化するには無惨の血が不可欠で、しかし分け与えられる血には順応できず死に至る者も多いと訊いた。血の力があまりに強く、細胞が破壊されてしまうのだ。
一方で、順応すれば鬼と化す。与えられた血の量が多ければ多いほど、成長速度も格段に早くなる。
「かえ、しテ」
( っ、なに···? )
「あたシの、おさ"かな"······ッ"────かえ"シ"てよお"ぉ"ぉ"ぉお"お"お"ッ!!!」
「な······っ!」
小さな体躯が一気に膨れ、ハ"チ"ン···ッ"!!!と弾けた。併せて失せた鬼の体躯に入れ代わり、大量の金魚が星乃目掛けて飛び出してくる。
"季の呼吸 陸ノ型"
『 凍 固 守 冬 』
技を繰り出し日輪刃で金魚を次々と地に叩きつけてゆく。肩や脚を掠めた金魚が隊服の一部をジュワッと溶かした。もしも全身に金魚を浴びていたらと思うとぞっとする。
すべてのそれが息絶えるまで寸刻。
鬼はどこへ消えたのか。
体躯は水風船のように弾けたが、これほどの力を持った鬼があのまま消滅するとは考えられない。
そのとき、土埃漂う隙間から黒装束の人物が見えた。意識のない隊士を背負おうとしている塚本の姿だった。
よかった、無事だ。そう安堵したのも束の間のこと、二人に迫る鬼の姿が星乃の双眸に飛び込んできた。
「──塚本さんっ···!」
鬼に気づいた塚本が双眸を剥く。
星乃は、脚にありったけの力を込め鬼めがけて跳び出した。
ザン···ッ!!
壱ノ型を繰り出し鬼の腕を切り落とす。瞬時にもう片方の腕がこちらに向かってくるのを察知し、身体を捻った。
間一髪で直撃は交わしたものの、
「······ッ!!」
背を掠めた鬼の爪により星乃の隊服に血が滲んだ。