第15章 とまれかくまれ
どくん、と、星乃の心臓が大きく震えた。
ゴゴッ···ゴ······ッ
足もとから、重低音が轟く。地鳴りだ。
次の瞬間、
ト"···ッ、ゴォ"ン···ッフ"シャァア······ッ!!!
「「「───ッ"ゥ!!!」」」
眼前の地を砕き、上空目がけて巨大な水柱が突き抜けた。
水圧で、あっという間に四人共々吹き飛ばされる。
「く、···ッ!」
宙で身体を捻り一回転。ダン···ッ。星乃は着地しすぐさま視線を四方八方へ走らせた。
他の三人は···!?
水飛沫でできた霧と土埃で視界が悪く見つからない。無事なのか、どの辺りにいるのかさえわからない。
けれど、
( 大丈夫···。きっと、みんな生きてる )
絶望している暇はない。
──びちゃ…っ
「!?」
上空から水の塊が落ちてきたと思ったら、星乃は頭頂から脚の先までずぶ濡れになっていた。脚もとを見下ろすと、金魚が数匹びちびちと跳ねている。
( 血鬼術···!? )
後方へ跳び、その場から一旦距離をとる。すると、背後におぞましい影を感じた。
"季の呼吸 肆ノ型"
『 雨 飛 灯 籠 』
振り向きざまに刃を振るう。全身の回転に勢いをつけ、激しく、鋭く斬りつける。
( いない···っ )
またしても忽然と鬼は姿を眩ませる。再度強い妖気を感じ振り返った先、鬼を真正面から捉えた星乃は己の目を疑った。
日輪刀を握りしめる腕が、だらりと下がる。
( この、子は )
うなじが、じりりと熱くなる。
酷熱の夏の日。通い慣れた田園の路。
陽光を反射し煌めく、澄んだ水面。魚捕り。
道すがら出逢った、仲睦まじい三兄妹。
花のような愛らしい笑顔の女の子は言っていた。
『あ た し、 あ か い お さ か な が ほ し い』
( そん、な )
「ちガうの······これじャ···なイの」
鬼は呟いた。
逆立つ髪。朱色の眼。空気に触れている皮膚が、ボコ、ボコと膨れ上がる。まるで、体内で金魚が暴れているようだ。