第15章 とまれかくまれ
星乃は、怪我をした隊士を支え歩き出した。
鬼の気配に細心の注意を払いつつ、もう一人の負傷している隊士と隠がいる場所へ向かう。
負傷した隊士はうつむいたまま大木によりかかっていた。隠が懸命になにか処置を施しているが、手持ちの応急処置では限界があるようだ。
隠の背中が振り返り、星乃は思わず脚を止め「あなたは······」と声を漏らした。
雲に隠れていた月が再び姿を現すと、隠の目もとが柔らかく照らし出される。
──塚本だった。
「···あの鬼は異能を操ります。なかなか隙を見つけられず身動きができないうちに、彼はとうとう受け答えすら困難な状態に···。脈も弱まっています」
「一刻も早い処置が必要ですね。あとは任せてください。あなたは急いで彼を蝶屋敷へ。それから、こちらの彼もこれ以上の戦いは危険だと判断しました。幸い歩くことは可能ですから、三人ですぐにここから離れてください」
「承知しま、···く、っ」
立ち上がろうとした塚本が顔を歪め腕を押さえた。その手には大量の血液が付着している。
「あなたも怪我を···っ?」
「······鬼に出くわしたときに、少し···。たいしたものではありません。それよりも、彼らを早く」
塚本は、ぐったりと木にもたれかかる隊士に沈痛な眼差しを向けた。もしかしたら、責任を感じているのかもしれないと思った。
止血の処置は施しているものの意識は戻らず、隊士の顔面は蒼白している。かなり危険な状態だ。
「···わかりました。鴉は隠への応援を呼びかけているはずだから、蝶屋敷へ向かう途中で誰かと合流できるはずです。それまで、よろしくお願いします」
「···え、」
塚本の傷口に手巾を添えると、星乃は脱いだ羽織で塚本の腕を止血した。
「大丈夫。みんな助かるわ。絶対に大丈夫」
「······」
「っ、飛鳥井さん、僕はまだ戦えます···! 一緒に」
「ありがとう。けれど、できる限りで構わないからあなたは隠の彼を援護してあげて。ここは私ひとりで大丈夫。幸い十二鬼月ではないようだし」
「しかしあの鬼、短期間で相当な人間を食っているようです······幼子だからと見くびっていましたが、思いのほか強い···っ」