第15章 とまれかくまれ
星乃は鞘 (さや) から刃を抜いた。
人里からは離れているし、ここなら村人に及ぶ危険を考慮しなくても良さそうだ。躊躇いなく戦える。
そのとき、「ガ、ァ"···っ!!」という男の叫び声がし、ドン···っ!!という衝撃音が山を揺らした。
双眸を凝らしてみると、裾の短い着物を着た幼女とおぼしき人物の傍らで、うつ伏せに倒れている一人の隊士の姿があった。
( あの、幼子は······ )
駆け寄ろうとした瞬間、星乃は震駭した。
肩ほどまである幼女の髪が逆立ち、着物から覗く首筋や四肢にボコボコと血管が浮かびあがっている。
肌の色は人間のものと思えず、青紫色に変色していた。
まさか、あれが───
鬼!!
確信と同時に力一杯で地を蹴り上げる。
懸命に立ち上がろうともがく隊士の上に手をかざす鬼。息の根を止めるつもりなのだろう。
「···っ」
お願いどうか、
"季の呼吸 壱ノ型"
───間に合って!!
『 立 夏 』
ザン···ッ!!!
体幹に集中し、寸分たがわぬ正確さで一直線に鬼の頸めがけて刃を振るう。
「──!?」
ズザザァァ···ッ!
いない···!
直前までは確認できていたはずの鬼の姿が消えていた。頸を斬った感覚もない。
( 仕留め損ねた···っ )
「っ、大丈夫ですか!?」
「···う"っ"、なん、とか」
隊士に手を貸しゆっくりその場に座らせる。
「あなた、は···前の鬼との戦いで負傷したはずじゃ···」
「っ"、い···え、僕は、応援に駆けつけた隊士です···。彼らは、あそこの、木の影に···っ」
隊士は右手側方向を指差した。背中を痛めたのかしきりに苦しげな声を出し、背面へ手を回す仕草を見せる。
また月明かりが遮られ、辺りの視界がぐっと鮮明さを失った。
梟の声がこだまする山の中腹。姿を消した鬼はどこかで身を潜めこちらの様子を窺っている。
そんな気配がする。