第3章 その蝶、侮ることなかれ
「なんだってかまわねぇだろォ、どっちも俺んだ、」
「ああ、いたいた、実弥ごめんね。思っていたよりも早く順番がまわって、······あら」
石畳がからころと鳴り、しのぶの背後から大きなわたあめを手に小走りで駆けてくる星乃の姿を目にした瞬間、実弥の思考は停止した。
「しのぶちゃん?」
「まあ、星乃さんではないですか」
「こんなところで会えるなんて~! お久しぶりね~!」
「ええ。星乃さんお元気そうでなにより」
「しのぶちゃんも」
「オイ、あぶねぇだろうがァ···っ」
危うく胸もとに触れるか触れないかの距離を掠めた綿状の砂糖菓子を躱 (かわ) し、実弥はとっさに後方へと半歩退く。
「なんて立派なわたあめでしょう」
「ちょっと欲張りすぎちゃったかしら。久しい縁日だからつい······しのぶちゃんはおひとり?」
「ええ。私は買い物のついでに立ち寄っただけですのですぐにお暇致しますが」
「そうだ、せっかくならしのぶちゃんも一緒に回らない?」
「ゲホッ」
はしゃぐ女二人を横目に、ラムネ瓶に口づけていた実弥が噎せて咳き込んだ。
「あらあら」「大丈夫?」
しのぶと星乃が各々実弥に同情の目を向ける。
星乃としのぶは、以前から親しい間柄にある。
しのぶには姉がいた。
それが、カナエ。【胡蝶カナエ】という。
カナエは生前柱として鬼殺隊を支えていた、実弥とも面識のある剣士だった。
星乃とは長らく気心の知れた間柄だったが、上弦の鬼との闘いの末、カナエは若くして絶命した。
妹のしのぶといえば、姉のカナエを継いで医学の知識を生かし隊員らの体調管理や怪我の手当てなども行っている。そのため他の柱と違い一般隊士との接触も比較的多く、診療時、医学の道を志した妹の話を熱心に傾聴してもらえたことにも星乃は世話になっていた。
「お誘いありがとうございます。けれど、せっかくのお二人の逢瀬をお邪魔するのは気が引けますし」
「バ···ッッ、おいコラァァ、誰が逢瀬だァ、」
「やだしのぶちゃん。実弥とは全然、そんなんじゃないのよ」
───ガッシャン!