第14章 :*・゚* 桃色時雨 *・゚・。*:
「実弥カラノ言付ケヲ預カッテルヨ。『今日ノ晩ハユックリヤスメ』」
「······実弥は」
「星乃ヲ頼ムト言ッテ陽ガ落チル直前二出テイッタ」
「そう···。ありがとう紅葉さん」
紅葉の嘴をすりすりと指で撫で、振り返り寝間を見る。
ここで実弥に存分に愛されたことが、まだ少しだけ夢のように感じられる。それでも、寝間に籠った二人の熱や息遣い、身体に残る感覚が、実弥との行為を星乃にありありと思い出させた。
幸せな気持ちが胸の底から湧いてくる一方で、おそらくあられもない姿であったろう自分を想像すると羞恥心で埋まりたくもなってくる。
あぁぁ、と、星乃は両手で顔を覆った。
突如主 (あるじ) がおかしな挙動をして見せたので、紅葉はぎょっとした。
項垂れる星乃の頭頂へぴょんと飛び乗り、『マア、ダイタイノ想像ハツク』と言わんばかりにフン、と鼻を鳴らしてみせる。
星乃が鬼殺隊となってからの相棒だ。だてに長年星乃を見守ってきたわけじゃない。
紅葉もまたとある後悔の念に苛まれていた。
星乃が清二と揉み合ったあの日、傍にいなかったことである。
鴉は主に伝令の役割を担うため、四六時中隊士の傍にいられないのは当然のこと。しかし、もしも、もしもあのとき自分が行動を共にいていたら···。そんな思いが拭えずにいた。
星乃を実弥に取られてしまったという若干の嫉妬心は否めなくとも、紅葉は星乃の幸せをいつも心から願っているのだ。
東寄りに傾いた月。黄金色に輝く今宵の満月はやけに明るく、星乃の頭上にまで降り注いでいる。
紅葉さん···。呟くと、星乃は夜空にぽっかりと浮かぶ月を眺めた。
紅葉が再び星乃の膝の上に降り立つ。
「私······実弥のこと、」