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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第14章 :*・゚* 桃色時雨 *・゚・。*:



「······ぐっしゃぐしゃな顔、しやがって」

「ふ、」

「途中、つらくさせちまったかもなァ···。平気か?」

「大、丈夫···。けど、足が···ガクガク、するの」

「あァ、しばらくすりゃあ治まる。それまで大人しくしとけばいい」


 
 小さく微笑み、実弥は星乃の目尻に残る涙の粒を舌尖で舐めとった。

 気づけば白ちり (ちり紙) を持っていて、星乃に付着した白濁を綺麗に拭ってくれている。その処理が片付くと、枕代わりに頭に敷いた羽織の裾で涙や唾液を優しく拭った。
 


「実弥の羽織······汚れちゃう」

「構わねぇよ」

「ん、」



 実弥が世話を焼いてくれるのを眺めながら、これじゃあますます実弥のほうが年齢としが上みたいだわ···と、妙に甘やかされてこそばゆくなる。

 面倒見がいいのは、下に六人の弟妹がいたせいだろう。

 すぐ下の玄弥とも五つ年が離れているのだ。続く下の子たちはさらに幼かったということになる。母親は働き詰めだったと言ってたから、その間はきっと実弥がお世話をしていたに違いない。

 幼少期、実弥はどんな子供だったのか。ふとそんな想いが頭を過り、けれど尋ねたところで今は右から左へ流れていってしまう気がして止めた。

 ぼんやり横たわっているうちに、実弥はけっきょくなまえの乱れた襦袢をも綺麗に整えてくれたのだった。
















 目覚めると、星乃は布団の上にいた。

 いつの間にか眠りこけてしまったらしい。もうすっかり暗くなった外の様子が障子越しに見てとれる。

 寝間に実弥の姿はなく、辺りはしん···と静まりかえっていた。

 障子戸の外の廊下に、一羽の鴉の影が見えた。

 紅葉だ。

 布団から起き上がり、襦袢に羽織を纏ったあと、障子戸を静かに開く。



「紅葉さん······?」



 声をかけると、紅葉がとことこと星乃の足もとへすり寄ってきた。



「紅葉さん···。今日は、紅葉さんにも迷惑をかけてしまって······ごめんなさい」



 その場に腰を下ろし正座する。

 紅葉が、ぴょこんと肩の上へ飛び乗った。


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