第14章 :*・゚* 桃色時雨 *・゚・。*:
襦袢の衿もとを広げると、星乃の白くなめらかな肩が露出する。
「っ、ごめんなさ、わたし」
星乃の胸には晒 (さらし) が巻き付けられていて、それがよほど恥ずかしいのか、星乃は消え入りそうな声を漏らすと再び顔を覆い隠す仕草を見せた。
「···別に、謝るこたぁねぇよ」
「で、でも、近頃は、周りの子たちがしているのもあまり見ないから」
なるほどなァ、と胸の内で実弥は妙に納得していた。
以前、蜜璃の屋敷でまさおの作った隊服 (あんなもんを隊服とは認めねぇが) に身を包んだ星乃の胸が、思ってもみないものであったからだ。
隊服や着物の上からではあまりにも存在感がなく、気にとめたこともなかった。これでは想像がつかないのも無理はない。
「別段、珍しいことでもねぇだろォ」
「···本当···?」
「あぁ、ガキの頃だが、俺にも覚えがあるぜェ。ありゃあ、祭りのときだなァ」
「おまつ、り···っ、ん」
「郷里じゃあ、ガキだけで神輿を担ぐならわしがあってよォ」
「、ぁ」
星乃のみぞおちに顔を落とすと、実弥は見つけ出した晒の一番端の部分を歯牙でぐっと引っ張り上げた。
「っ、実弥の出身地って、たしか」
「京橋だ。そんで、弟にもこいつを巻いてやったんだが、まあ苦しいだぁなんだぁつってびいびい泣いてなァ」
「玄弥くん···?」
「ああ···玄弥だ」
実弥の口から玄弥の名前が出たのは、星乃が蜜璃の家にお呼ばれした帰り道以来だった。あのときは玄弥に対しどこか無理に突き放すような物言いをしてるように感じたが、今の実弥は弟のひ弱さをぼやいているようでいて、その語り口は柔らかな懐古に満ちている。
「···白ぇなァ」
「あ、」
満悦。降伏。
そんな、どちらともを含んだような柔い声音が鎖骨に吸い付く。実弥の唇はどこに落ちてくるのかわからなくて気が気じゃなくなる。
晒が胴体から巻き取られてゆく感触は微塵ほどで、唇に触れられた箇所が熱く溶けてしまいそうなことばかりに意識が向いた。
まだ隊服を着たままの実弥の開放的な胸もとも、星乃の視線をどこへ向けたらいいのか困らせる。
そうして膨らみがあらわになると、星乃に凄まじい羞恥の波が襲いかかった。