第14章 :*・゚* 桃色時雨 *・゚・。*:
しばし星乃に気を取られ、我に返った実弥はフイ、となまえ星乃から視線を背けた。
「······今日は、駄目だ」
──駄目だ。
そう己に念を押し、星乃へと伸ばしかけた掌を力強い拳に変える。
周囲を沈黙が取り囲み、星乃がまぶたを伏せたのがわかった。
「···そう、よね·····実弥の都合もあるものね」
ごめんなさい、気にしないでね。
普段と変わらぬ柔らかな微笑みを視界の端で追いかけながら、本当は、もう一度星乃をこの腕の中に閉じ込めてしまえたらと、実弥はもの狂おしい気持ちでいた。
できることなら、自分がそばにいてやりたいに決まっている。連れて帰ってしまいたいと言ったのは、紛う方なき本心だ。
だが、今日は自重するべきなのだと、なけなしの理性が抗う。
実弥は最大級の葛藤と対峙していた。
星乃に恋慕われる日が来ることも、ましてや星乃の口からそんな言葉が飛び出すことも、すべてが予想外に他ならない。
煉獄ならばよもやを連発するだろうし、宇髄ならばド派手な展開になったと歓喜していることだろう。
大どんでん返しもいいところだ。
( クソ、堪えろ······。でないと )
こんなもの、
抑えが効くはずがない──…。
「私は本当に一人でも平気だから、心配しないで。紅葉さんもいることだし」
「星乃」
「あ、そうだわ。そういえば、この間ご近所さんから美味しい茶葉をいただいたの。たくさんあるから、よかったら持って帰って?」
取ってくるわねと、その場で腰を浮かせた星乃の身体がよろめいた。
着物では少々動きが鈍るのだろう。
実弥も着流しを身に纏うが、隊服に慣れてしまうとこれほど動きやすい衣類はないと身に染みて感じるほどだ。