第14章 :*・゚* 桃色時雨 *・゚・。*:
星乃の着物は地に触れた箇所に砂が付着し、澄んだ夜空と見紛うような美しい色味をくすませていた。
そのとき、実弥は星乃が履き物を履いていないことに、今さらながら気づいた。
砂埃で汚れた白足袋。
両の足の指先が、ぴたりと揃う。
「···少し、待っててね」
「───!」
足早に踏み出した星乃の微かな違和感に、実弥は即勘づいた。
「星乃······!」
「っ···!」
実弥が星乃の肩に手をかけるまで、時間はまるでかからなかった。あっという間の出来事だった。
肩を引かれた一瞬の反動で、星乃の双眸から堪えていた涙が弾け飛ぶ。
「な"、っ?」
「ち、違うのこれは···っ、目に、塵が入っちゃっただけ···っ」
ふふっ、と笑い、頬に残った水滴を手で払う。それでも涙は止まるどころか次々と溢れ出てきてしまう。
星乃はいたたまれない思いに駆られた。
なんと見苦しい姿を晒していることだろう。こんなことで泣いてしまう自分が、自分でもよくわからなかった。
実弥から"駄目だ"と言われて脳裏によみがえったのは、継子の申し出を断られたときのことだ。
稽古をつけてほしいと毎日のように懇願しに行き、繰り返し拒絶された。最終的に実弥は折れたが、継子になることは叶わなかった。それでも今の一言はあの頃の比ではなかった。それくらい、星乃は自分の胸に走った痛みの大きさを自覚した。
やはり、慣れないことは口にするのもじゃない。わきまえがないことをしてしまったのだ。
「大丈夫だから、──っ!?」
ふわりと身体が浮遊したと思ったら、一気に視界の焦点を見失う。
ややあって、見慣れた景色を普段よりも高い位置から見渡していることに、星乃ははたと気がついた。
「······煽ったのは、てめぇだぜぇ」
「さ、実弥······っ?」
まるで米俵を担ぐそれのように、実弥の肩の上に担がれている。
「どうなっても、知らねぇからなァ」
「ひゃ···っ」
ジャリ、と、小石を踏みしめる音がした。