第14章 :*・゚* 桃色時雨 *・゚・。*:
彼にはこの先も隠として鬼殺隊にいてもらいたいと、星乃は思う。
仇討ちで鬼殺隊という道を心に決意した人間は、哀しみや焦燥を押し殺したまま慎ましく生きてゆくことを望まない。
それは、彼も同じ気持ちなのだとわかる。
「まァ、お前は危なっかいとこもあるしよォ······本音を言やァ、俺ん屋敷 (とこ) に連れて帰っちまいてェとは思っちゃいるが」
す、と唇から離れた指先。刹那に過った寂寥感 (せきりょうかん)。心なしか、実弥の声が、普段よりも甘味一匙分溶けた程度に甘く聞こえた。
この実弥の言動はすべてが無自覚のものなのだろうか。だとしたら、天然たらしだ、とどこか小憎らしい気持ちになる。
触れたり、離れたり。
近づいたり、また、遠ざかったり。
朧気な光を灯しては消え、灯しては消える、蛍を追いかけているような。
これまでに感じたことのない種の衝動が、星乃の中で一気に花を開かせ薄紅色の飛沫をあげる。
「なら、しばらく藤の花の家紋の家に──」
気がつけば、星乃は立ち上がろうとした実弥の羽織をぎゅっと掴んで引き止めていた。
「わ、たし······実弥と······もう少し、一緒にいたい」
声が震える。
言葉尻が、痩せ細る。
それでも抑え込むことができない衝動。
「実弥に、そばに、いてほしい」
星乃自身、困惑した。
こんなことを口にして、急に我儘な女になったと思われてしまうかもしれない。けれど、まだこの手を離したくないと、今無性にそう思うのだ。
もっと実弥を見ていたい。
実弥の声を聞いていたい。
実弥の体温に触れていたい。
髪に。頬に。
熱に触れたい。
ああ······匡近の言っていたことがわかった気がする。
こんなにも、あなたに触れたい。
───触れてほしい。