第14章 :*・゚* 桃色時雨 *・゚・。*:
「ただなァ······まぁ、俺は、今日のところは帰るつもりではいるが······お前をこのまま一人にさせちまうのは気がかりでならねェっつぅか」
言いながら、指先を顎につけ考えるような仕草を見せる。
「私···?」
「あんなことがあった後だろ? あの隠だって、またいつ戻ってくるかもわかんねェしよォ」
「それは気にしすぎじゃないかしら······? たぶん、隠の···塚本さんは、本気で私を傷つけようとしたわけじゃ、ないと思うの」
「んなこと言ってっから危険な目に遭うんだろうがァ。気ィ抜かず用心しやがれよォ」
トン、といささか鈍い音が星乃の頭部に伝わった。実弥から星乃への、まったく痛くないでこぴんだった。
その直後、「はい···」と再び肩をすぼめる星乃の下唇に、実弥の親指が唐突に触れた。
「っ、?」
「甘露寺にでも声かけてみるかァ」
「甘、露寺···って、蜜璃、ちゃん···?」
なぜ、実弥は唇に触れているのか。
星乃の脳内を戸惑いと疑問符が埋め尽くしたところで、親指がそっと横滑りする。
星乃の唇には、桃色の紅が引いてある。もしかしたら、先ほどの口づけで紅がよれてしまったのかもしれない。実弥はそれを拭ってくれたのかもしれない。
けっきょく真相は不明のまま、その都度実弥に見せられる仕草に胸の高鳴りだけが増す。
「誰かが近くにいたほうがいいだろォ」
「だ、めよ、蜜璃ちゃんだって、忙しいのに」
星乃は小さく首を振った。
心細くないといえば嘘になる。けれど関係のない皆に迷惑はかけられないし、もしも隠が剣士に危害を加えようとしたかもしれないことが知れたら、本部で問題になってしまうかもしれない。
そう考えると簡単には頷けなかった。