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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第14章 :*・゚* 桃色時雨 *・゚・。*:



「···実弥? 大丈夫?」



 実弥の耳に、心細げな声が届いた。

 星乃の身体はまだどことなく緊張の糸がほぐれていないように感じる。

 反して実弥は非常に望ましくない現象に見舞われている最中だった。
 思いのほか、感情が昂り過ぎたのだ。おかげで現在隠し所までもが高揚甚だしい有り様である。

 こンのくそったれの愚息がよォ···と、実弥はますます項垂れたい気分で内心大息を吐き出した。

 このところ、任務や鍛練にいっそうと精を出していた実弥。
 事実、忙しさにかまけると、実弥は"そちら"の処理がおざなりになってしまうこともしばしばなのだ。



「もしかして、体調が優れないのに無理して時間作ってくれたの···?」

「いや、」



 気遣わしげに伸びてきた手をとっさに掴んで制止する。今、星乃に触れられるのは非常にまずい。

 己の意思で触れるぶんにはまだ問題ないとしても、だ。不意打ちの受け身は実弥の心臓、もとい理性に毒ですらあるといえる。

 ほつれた理性はまたいつ以前のようにほどけてしてしまうかわからないのだ。前科があるぶん、ここは心を強く持たねばならない。



「けれど、今日のことに実弥を巻き込んでしまって、本当に申し訳なく思っているの···。よかったら家で少し休んでいって?」



 実弥は閉口した。もちろん星乃に他意はないとわかっている。



「···そいつァ······遠慮しとくぜェ」

「実弥、今夜も任務でしょう? だったら、それまでの時間」

「また我慢がきかなくなっちまうかもしんねぇだろうが」



 まるで針の筵 (むしろ) にも似た場所に追いやられた様相の実弥を見つめ、星乃は言われた意味がすぐに理解できずに「うん?」と小さく首を傾げた。直後、悟った様子で「···あ、」と口もとに手をやる。



「あの、ごめんなさい······私、そういうつもりじゃ」

「······」



 実弥は赤面しながら肩をすぼめる星乃の頭にポンと掌を弾ませた。




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