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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第14章 :*・゚* 桃色時雨 *・゚・。*:



 重なり合った唇のぬくもりは一度離され、名残惜しいと思う間もなく、ついばむような軽いものが左右の口の端を優しく行き交う。かと思えば、上唇、下唇と、立て続けに柔らかく挟まれる。

 実弥の唇があちこちに触れるたび、星乃の身体はぴくりと反応を示してしまう。

 温かな掌が頬をそっと包み込む。

 口づけが、ぐっと深くなってゆく。



「──ふ、っ」



 歯列をこじ開けぬるりと挿入してきた舌は、まるで別の生き物のように器用に蠢き星乃の舌を絡めとる。

 どう応えたらいいだろう、なんて考えさえ追いつかない。
 しっとりとした舌の動きに翻弄されて、星乃はいつしか寄りすがるように実弥の羽織を両手で握りしめていた。

 双眸を薄く開かせる。
 熱に浮かされたときみたく、実弥の輪郭越しに見える景色が霞む。眩む。

 指笛に似た鳥の鳴き声が、遥か彼方へ消え落ちた。

 じわじわとこの世から切り離されてゆく錯覚に飲み込まれ、ただ実弥だけを感じている。それでもいいと思える。



「ハ、ァ、さ──っ」



 一刹那、唇と唇に引いた細糸。切れてしまわないうちに、すぐにまた捕らわれる。

 繰り返し繰り返し、食 (は) むような口づけに捕らわれる。



「「っ、は」」



 どのくらいそれを交わしていたのだろう。

 唇音を放った吐息は周囲に熱を漂わせ、実弥と星乃はしばし息のかかる距離から互いを見つめた。

 先に差しうつむいて頭を掻いたのは、実弥だった。



 ああ、



 ──…やべェな、これは。




 そう思った。

 上気した頬。たゆたう眼球。濡れた唇。

 星乃の表情は息を飲むほどに扇情的で、長きに渡り抑え込んできた実弥の熱をこれでもかと焚きつけてくる。


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