第13章 過ぎ来し方、草いきれ
待ち合わせていた神社へ到着してすぐ、紅葉がひどく取り乱した様子で飛んできたので何事かと思い焦った。
道すがらざっと話を聞いておおかたを理解し、腸 (はらわた) が煮えたぎる思いで星乃の家に到着すると例の隠の声がした。
二人の姿が飛び込んできたとたん、鬼に抱く感情と同じものが体躯を巡った。考える間もなく飛びかかり、隠を背後に殴り飛ばしていた。
どんなことをしてでもこの手で守り抜きたいと、存在を重んずる者がいること。
踏みつけにしようものならば、それが誰だろうと、なにであろうと許さない。
心底そんな想いを抱いた刹那、以前柱合会議で竈門炭治郎に言われた言葉をふと思い出し、少々心疚しく感じたことは言わないでおく。
星乃はようやく落ち着きを取り戻し始めていた。
呼吸が整い周囲の音を拾えるようにまでなると、実弥の腕の中にいることを自覚し急に恥じらいが沸いてくる。
抱きしめられているこの状況が、とにかくとっても恥ずかしいのだ。どきどきしすぎて、どうにかなってしまいそう。
実弥は、いつ離してくれるのだろう···。それとも私から離れたほうがいいのだろうか···。
ああ、けれど。
( ···やっぱりもう少し、このままが···いい )
星乃は実弥の隊服の脇腹をぎゅっと掴んだ。
実弥の髪が、ぴくりと一刹那揺れ動く。
「···少しは、落ち着いたか」
「あ、あの···ごめんなさい私···なんだか感極まってしまって」
あんな風に大泣きしたのは久方ぶりで、星乃は自分でも信じられない思いでいた。
実弥の腕から解放されると、ほのかな熱が二人の隙間から空へ逃げてゆくのを感じた。
実弥は黙ったまま星乃を見ていた。
笑うわけでも、怒っているわけでもなく、特に感情を表に出さずに星乃をじっと凝視してくる。