第13章 過ぎ来し方、草いきれ
幼子のように泣きじゃくる星乃の身体を、実弥は腕の中へ閉じ込めるようにして抱きすくめた。
肩にすり寄る背中をさすり、しばし口を結んで前を見据える。
堰を切ったように懇望する星乃のそれは、まるで、長きにわたり抑え込んできたものがとうとう爆ぜたかのようだった。
本当は、ずっとこう言いたかったのだ、とでもいうように。
過度な心遣いは時に枷ともなってしまう。
鬼と化した母を殺めた幼い頃の手。守れなかった家族の命。残してきた実弟。消えぬ鬼舞辻への憎悪。そして憤懣 (ふんまん)。
同じぶんだけのそれを共有できない私が、なにを諭せるというのだろう。そんな自問自答を繰り返し、臆病風に吹かれて日々は過ぎ去る。
しかし今、実弥を前にして星乃は強く思うのだ。
これまで言えずに仕舞い込んできた思いの丈を、どうか包み隠さずあなたに打ち明けさせてほしいと。
慎みなんてありはしない。顧慮も斟酌 (しんしゃく) もあえてしないことを許してほしい。
それを取り払ってでも、どうしてもあなたに心から伝えたいことがある。
手の届く距離にいるうちに。
触れ合えるぬくもりのあるうちに。
「お前の気持ちは、わかったから···だから、泣くな···。お前に泣かれると、弱ェんだ俺ァ···」
しかし夢ではないのか、と、実弥は内心ゆらゆらとたゆたうような思いでいた。
長年焦がれ続けてきた女が、しかも、友であり兄弟子の許嫁だとこれっぽっちも疑っていなかった女が、実は結婚は取り止めになっていて、今は目の前でこの自分を好いているのだと口にする。
半歩引いて物を言うばかりだった星乃を長く気にかけてはきたものの、真正面からさらけ出された本音は実弥の心をこの上なく掻き立てた。
戸惑い、安堵し、しかしどこか心苦しく、そのくせ五臓六腑がじんわりと熱くなる。
愛しいと思った。