第13章 過ぎ来し方、草いきれ
俺は、とんだ思い違いをしていたのだ。
星乃の話を聞きながら、実弥は匡近の最期を思い出していた。
「なら、あのとき匡近が俺に言おうとしていたのは」
「あのとき···?」
「前下弦の壱との戦いの日だ···。あいつと、任務へ向かう道すがら」
星乃は察したようにうつむくと、婚約を解消したのは、その、幾日か前のことなの···と膝の上で拳を作った。
「俺は、てっきり、匡近とお前が正式に祝言を挙げるもんだとばっかり」
星乃の拳に力が入る。
「ま、匡近は···っ、最後まで、優しかった···っ、私は匡近になにかしてやれたわけでもないし、それどころか、匡近を振り回すようなことをしてしまったのに···っ、それなのに、恨み言も言わずに···っ、これからも仲間として、親友として、気持ち新たによろしくなって、笑って···っ」
ぼろぼろと、星乃の頬を大粒の涙が落ちてゆく。
「星乃が笑っていてくれれば、俺は幸せなんだって···っ、だから、絶対に幸せになるんだぞって···っ」
「アイツは、本当に···お人好しのお節介兄貴だぜ···」
「わ、たし、ちゃんと、ひとをすきになったことがなかったから···っ、わからなくて···っ」
「······」
「実弥への···っ、気持ちも···っ、すぐに、気づけなくて、ごめんなさい···っ」
「星乃」
「わたし、さねみのことがすき」
今何か口走りやがったか、と実弥はすぐに星乃の言葉を理解しようとしていなかった。
星乃がまた呼吸を乱すのではないかと案じ、そのことだけに気を取られていた。
矢先の言葉だった。
「っ、!? ──おま…っ、今、なんつっ···」
「さ、実弥が、すきなの、大好きなの···っ」
「···いやまて」
「実弥、お願い···っ、いなく、ならないで···っ、死なないで···っ、無茶なこと、しないで···っ、なんでもひとりで、抱え込まないで···っ、がんばりすぎないで···っ」
「星乃、落ち着け」
「っ、さ、実弥が、大切なの···っ、実弥がつらいと、私も、つらいの」
「っあああクソ···っ···!!」