第13章 過ぎ来し方、草いきれ
実弥の言う通りだった。
あのとき文乃が星乃に冷たい眼差しを向けたのは、姉である自分が妹を信じてあげられなかったからだ。
そんなことに気づくこともできなかった自分が、今でも不甲斐なくてたまらなくなる。
"俺は星乃と生涯を共にしたいと思ってる"
匡近から想いを告げられたのは、それから後のことだった。
このときはじめて匡近が自分に想いを寄せてくれていたのだと知り、見慣れていたはずの匡近の真っ直ぐな眼差しに、星乃は急に気恥ずかしさを覚えたのだった。
同時に生娘ではなくなってしまったことの後ろめたさと罪悪感がよみがえり、自分は匡近には相応しくないのだと、一度は匡近の気持ちに背を向けた。
匡近は、すべてをひっくるめて星乃を幸せにしたいと言ってくれた。
胸の奥にあたたかなものが生まれた。
過ちを抱えていても、それでも生きてゆこうと思えた。
星乃の傍らには当たり前のように匡近がいてくれた。
励まされ、時に切磋琢磨し、鬼殺隊では階級が上がってゆくほどお互い忙しない日々を送ったが、定期的なやり取りは決して欠かさず、合間を見つけて食事をしたり遠出をしたりしてひと息ついた。
匡近の屈託のなさは、星乃に揺るぎない日常を与え、手を引くように導いた。
あの笑顔が大好きだった。
すべてを許し、受け入れてくれた匡近の気持ちに、応えたいと思った。
幸せに、なれると思った。
「···俺は、お前に一番しちゃいけねぇこと、しちまったんだな」
「え···?」
「無理矢理、欲、晒しちまうようなことしてよ」
本当に悪かったと、実弥は珍しく儚げな声を落とした。
あのときのことは、怖くなかったといえば、嘘になる。
実弥がまるで別の男のひとになってしまったように思えて。
「···でも、実弥だったから···私、嫌じゃ···なかった」
「···あ? 何を、言ってやがる···。お前は今も匡近を忘れられねぇんじゃねぇのかよ」
「その、ことなのだけれど···私、匡近との結婚は···取り止めに、なったの」
「は、ァ!? いったいどういうことだそりゃあ」
声を上げ、実弥は大きな双眸をさらに大きく見開いた。