第13章 過ぎ来し方、草いきれ
『な、にを言うの···っ、文乃のせいじゃない···! 私が、私がもっとしっかりしていればよかったの···っ、そしたら、あんなことには』
力なく、文乃は頭を左右に振った。
『それ、なのに······文乃は······ねえさまに、ひどい······ことを』
『文乃、いいの、もういいの···っ』
『悔やん、でも、悔やん、でも······くやみ、きれ、ない······ねえさまを······傷つけるような男を、愛してしまった······じぶんが······ゆるせない』
『文乃お願い、もうしゃべらないで···っ、待っててね、すぐに病院へ』
──きゅ。
文乃を背に担ごうとした星乃の羽織を、文乃の手が頼りなげな力で掴んだ。
『ねえ、さま······この、いちご······あまく、なるかしら······? 実が、ついた、ら······文乃に、いちばんに······つま、せて、くれる······?』
『っ、もちろんよ···! きっと甘くなる···っ、文乃が全部摘んだってかまわないわ···っ、だから、』
『ふふ······たのしみ······そう、だ······たくさん、とれたら······ばあ、さまに······おだいふくに、して······もらいましょ』
『文乃···! しっかりして、文乃!!』
「···その後、文乃は肺炎を悪化させてしまったの」
「だろうなァ···自死なわけがねぇと思ってたんだ」
「文乃の婚約が破談になったことは知れていたから、なかには自死したのではないかと勘ぐるひともいたことは、確かよ」
「ったく、外野はここぞとばかりに勝手なことを言いやがる」
「けれど···私が、いちごの苗を庭に植え替えたりしなければ、とか、苗を貰ってきたりしなければ···って、そんなことばかり──っ」
ふわりと、実弥が星乃を抱き寄せる。
「お前のせいじゃ、ねぇよ。文乃だって、お前と食べるそのいちごを、楽しみにしてたんだろうよ」
「···、っ」
「あの隠のクソ兄貴のこともよォ、文乃はお前を不幸にしてまで幸せになりたいとは、思ってなかったはずだぜ」