第13章 過ぎ来し方、草いきれ
庭先で、文乃がうつ伏せの状態で倒れていた。
すう···と、音もなく、臓物を引き抜かれるような感覚に襲われる。
星乃はすぐに文乃に向かって駆け出した。
『文乃···! 文乃···!!』
文乃が早朝からこんな場所で倒れているなんて、なにかの間違いであるとしか思えない。
信じたくない気持ちのまま、華奢な背に積もった雪を払い落とし、地に伏せた身体を仰向けに支える。
目の当たりにした文乃の顔は、血色を失っていた。
呼吸はある。しかし、青ざめた唇からは微かにヒュー···ヒュー···という雑音が聞こえた。
いったいいつからここで倒れていたのだろう。夜の衣の上には長羽織を着ているが、とてもこの寒さをしのげるような格好ではない。
足もとは裸足に麻裏草履を履いていて、そのうち片方は脱げてしまっている。
まるで、外に干した洗濯物を取りにゆくだけのような身なりだ。
『······姉、さ······?』
そのとき、文乃の双眸がうっすらと開かれた。
『文乃! なにがあったの!? どうしてこんなところに···っ』
鴇色 (ときいろ) がかった曙の空。
閑静な家並みの隙間を抜けた朝日が庭先の雪を照らすなか、文乃は震える唇を動かした。
『······いち、(ご) 』
───いちご。
紡がれた微かな音を拾い、そして気づく。
露地庭の一角にあるここは、星乃がいちごの苗を植え替えた場所。
以前、冬越しのため苗の根元に敷きつめた藁が、新しくなっていた。
傍らには汚れた古い藁の束。さらには、昨晩から降り続いたにもかかわらず、苗の周囲には雪は積もっていなかった。
ふと、しもやけで赤く腫れた文乃の指先に目がいく。
弱々しく微笑むと、文乃はもう一度まぶたを閉ざした。
『いちご、はね······ゆきに···うまってしまうと······育たなく、なって···しまうのですって』
『っ、なにを、言って···っ、』
つう···と、文乃の目尻から涙が流れる。
『っ、ねえ、さま······ごめん···なさい······』
『文乃···っ』
『文乃の、せいで······ねえさまに···傷を···おわせて···しまったこと』