第13章 過ぎ来し方、草いきれ
「今日話てぇことっつうのは、これか」
「紅葉さんから、聞いたのね」
「ああ···紅葉が知る限りの話は、聞かせてもらった」
「わざわざ手間を取らせて、ごめんなさい」
「いいや、お前から言われなけりゃ、そのうち俺が出向くつもりでいたからなァ」
誘 (いざなわ) れるように、実弥と向き合う。
星乃の目尻を撫で上げた実弥の指の感触を経て、こらえきれなかった涙が知らぬまに零れ落ちていたことに気がついた。
「匡近は、全部知ってたんだな」
「偶然、任務の帰りに飛鳥井の家に立ち寄った匡近が、物音で異変に気づいてくれて······清二さんを途中まで介抱してくれたのも、匡近だったの」
匡近がそばについていてくれたことで、星乃は家族にすべてを話せた。その間 (かん) 文乃はなにも喋らず、最後、色のない双眸を星乃に向け、唇だけを動かしてこう言った。
『ずっと、黙っていらっしゃったのは、文乃を憐れんでのことですか······それとも、文乃を想ってのことですか』
それが、本当に、
私の幸せだとでも言うの。
────姉様。
それから文乃と延々口のきけない日々が続いた。
庭先で割れていた鉢からいちごの苗を取り出すと、星乃はそれを露地庭の土に植え替えた。
何度謝り続けても、文乃の心は閉ざされたまま。
当然だ。
清二と文乃の幸せだった時間はもう決して戻らない。
自分が、私が文乃の幸せを奪ってしまったも同然なのだから。
それからというもの、星乃は胸に晒 (さらし) を巻いた。
鬼殺隊の隊服も、膝丈のキュロットスカートの下には季節を問わず黒のタイツを着用している。
春の訪れが薫る頃。
しかしあの日は急に真冬に戻ったような寒さに見舞われ、明け方までしんしんと雪が降り続いていた。
任務を終えた早朝、星乃が飛鳥井の家へ立ち寄ると、
『─っ!? 文乃······っ!?』