第13章 過ぎ来し方、草いきれ
だから私は鬼殺隊にいるのです。と、隠は上空の彼方へぼんやりと虚ろな視線を向けた。
あれ以来清二に会うことはなく、のちに一家は別の町へ引っ越したと聞いていた。
けれどまさか清二さんの身に、
鬼が───…。
「······チッ」
言葉がなかった。
実弥は小さく舌打ちを鳴らすと沈黙し、しばらくして掴んでいた隠の顎から手を引いた。
隠の膝が崩れ落ちる。
前屈みにうつむく背中が、ゆっくりと上下した。
「本当は、自らの手で鬼の頸に刃を振るえたならばどんなによかったか······しかし、私に剣技の才はなかったようです。幼い頃から武術を嗜んできた身として、体力に自信はあったのですがね」
「···失せろォ。二度とこいつの前にそのツラ見せに来んじゃねェ」
実弥は隠に背を向けて、静かに、しかしはっきりと、念を押すように言い放った。
それ以上は隠もなにも語らなかった。
取り払った口隠しの布を顔面に結び直すと、ただ実弥の指示に従うように、虚ろな双眸のまま鈍い足取りで星乃の家から去っていった。
星乃は遠ざかる隠の後ろ姿を沈痛な面持ちで眺め続け、その後、へなへなと力なく地面の上に臀部を落とした。
オイ、と、実弥が即座に眼前までやって来る。
「······怪我は、ねぇようだなァ」
温厚な口ぶりだ。
声音も、眼差しも、所作ひとつとってもすべてが優しいものに感じられる。
胸奥にある部屋の、柔らかな扉がゆっくりと押し開かれてゆく追憶にも似た圧迫感に、喉がほろ苦さで縛られて星乃は言葉を詰まらせた。
どうしようもなく目頭が熱くなってゆく。
実弥には軽蔑の眼差しを向けられることも覚悟の上ですべてを話そうと決めていた。
けれど、事実を知った今もなおこうして変わらず実弥が目の前にいてくれる。