第13章 過ぎ来し方、草いきれ
「そんなもんはなァ!! 身から出た錆っつうんだよォ!!!」
「ゥ"ウ"···ぐぅ"!」
「さ、実弥っ···!」
「お前は来んじゃねェ!!」
「っ、」
ビリリ、空気が大きく揺らいで踏み出した足が止まった。
実弥は隠の顎を片手で鷲掴みし締め上げる。グア"ァ···!と、猛り狂う獣のような隠の声が上空に散ってゆく。
「っ、ガ···! ぁ"、ぁ、ははは、は······!」
「! テンメェ···! なにが可笑しい···!!」
「···っ、ぐ、は、次は、風柱ですか···っ」
「ァア···っ!?」
「妹の婚約者誘惑して、その後は粂野とかいう隊士と婚約していたと聞いたが···っ、彼が死んだと思ったら次は風柱かよ···! しとやかそうな顔しておいて、とんだあばずれな女だな···!」
ぐ、あぁァ、ア"!!
再び鼓膜がはち切れんばかりの叫び声が空を裂く。皮膚に食い込む実弥の指は容赦なく、顎の骨の軋む痛みからか隠の意識は朦朧とはじめていた。
「それ以上口にしてみやがれェ···! 本気でこの首へし折ってやる···!!」
「実弥···! お願いもうやめて···!!」
「なんにも知らねぇテメェが、アイツを侮辱すんじゃねェ!!!」
星乃は駆け出し、勢いのまま実弥の背中に寄りすがった。
隠にもしものことがあったら、実弥といえどきっとお館様が黙っていない。自分のせいで実弥に傷のつくようなことは絶対にさせられない。
「私は···っ、私は何を言われてもかまわないから···っ、清二さんの身体に取り返しのつかない怪我を負わせたのは本当のことだから···!」
「当然の報いだろうがァ! おい隠ィ···! テメェと一緒にそのクズ野郎も俺がブッ殺してやるよォ···!!」
そのとき、隠がハ···、と血の混じるような吐息を漏らした。
「っ、兄は、とうに、死にました」
実弥の動作が停止する。
星乃は耳を疑った。
「鬼に、襲われたのです。昨年のことです。ですから、兄はもういません」
「そ、そんな···っ」
清二さんが、鬼に······!?
実弥の背につく星乃えの腕が、力なく滑り落ちてゆく。